日展の会場でスマホを手に展示作品を撮影する入館者たち(京都市左京区・市京セラ美術館)

日展の会場でスマホを手に展示作品を撮影する入館者たち(京都市左京区・市京セラ美術館)

「悲運の画家たち」展で写真撮影可能だった館内。ガラスの透明度が高く撮影しやすい(会期は既に終了、京都市右京区・福田美術館)

「悲運の画家たち」展で写真撮影可能だった館内。ガラスの透明度が高く撮影しやすい(会期は既に終了、京都市右京区・福田美術館)

大津市歴史博物館の企画展で会期中に撮影が可能だった盛安寺の十一面観音像

大津市歴史博物館の企画展で会期中に撮影が可能だった盛安寺の十一面観音像

 美術館や博物館で展示作品の写真を撮れるケースが京都府や滋賀県でじわりと増えている。来場者の声に応えるかたちで広まり、集客効果への期待もあるが、芸術との向き合い方を巡って試行錯誤が続いている。欧米の美術館では広く認められている撮影だが、日本では広がるのか。

■「日展」が解禁、時代の変化に対応

 京都市京セラ美術館(左京区)で昨年12月から今年1月にかけて開催された日本最大の公募展「日展」の会場ではスマートフォンを片手に作品を撮影する入場者の姿があった。京都会場に展示された約520点の絵画や陶芸、書の作品のうち、ほとんどの出品者が撮影を許可した。

 日展事務局(東京都)によると、著作権保護のために長らく禁じられていたが、5年ほど前から東京で試験的に撮影を解禁し、2年前からは京都でも同じルールを適用している。改変をしないなど制限はあるがSNSに公開することもできる。事務局は「家でも見たい、誰かに見せたいという声が多く、時代の変化に対応した」としている。

■世界では「撮影可」が主流、集客に貢献

 英ロンドンの大英博物館や、仏パリのルーブル美術館など世界各国で作品の撮影が許可されている。2019年に開館した私立の福田美術館(右京区)も同様に、開館当初から作品の撮影ができる。館蔵品でないなど一部を除き、各企画展で京都ゆかりの伊藤若冲や上村松園、竹内栖鳳らの日本画をカメラに収められる。川畑光佐館長は「日本でも竹内栖鳳よりゴッホが知られているなど、日本画になじみが薄いのが現実。少しでも絵が多くの人に拡散され、魅力を知ってほしい」と語った。展示された絵画が、SNSを通じて拡散することで、集客にも貢献しているという。

 このほか京都国立近代美術館(左京区)も以前から館の所蔵作の展示は撮影を許可している。

■撮影不可を貫く施設も多数「静かな展示環境を守る」

 一方で撮影不可を貫く美術館や博物館も多い。府立堂本印象美術館は「やはり静かな展示環境を守るのは大事」としている。スマホのシャッター音で、美術館の落ち着いた雰囲気が崩れることを懸念する。日展の会場となった京都市京セラ美術館でも、その他の展示では撮影ができない。

 京都の洋画家で、日展では撮影不許可を続けている池田良則さんは「美術館は作品と(来場者が)一体となって向き合う場。集中して見てほしいのに、写真を撮るだけで終わる人もいる」と感じている。

 二次利用にも課題がある。池田さんは「自分の知らない所で画像が転載されていく不安もある」と話す。被害に遭っても気づかないネットの世界。撮影を許可する美術館も「非営利目的の利用に限る」と定めているが、実際に見つけることは難しい。

■「限定」で撮影できる工夫も

 現場では工夫が続く。昨年10~11月に大津市歴史博物館(大津市)で開かれた企画展「聖衆来迎寺と盛安寺 明智光秀ゆかりの下阪本の社寺」では、盛安寺(同)所蔵の十一面観音像(重要文化財)が1体限定で写真撮影が可能だった。同博物館学芸員の寺島典人・学芸係長は「写真を撮りたい人と、静かに見たい人の両方に配慮した」と説明する。

 仏像への関心が高まり、展示品を撮影したいという要望が多く寄せられるようになっていた。実現を目指して所有者との交渉を行い、19年の企画展から撮影可能な仏像を準備しているという。「来てくれた人におみやげを持って帰ってほしい」という思いもあって調整に奔走した。

 他にも撮影を許可できる展示品はあったが1点に限定した。多くの展示品で撮影ができると、音で気が散る上に1カ所に人が集まってしまう可能性もある。1カ所だけ撮影スポットを作れば、静かに見たい人にも納得してもらえるのでは-。「まだ試行錯誤しているところですが、展示の全面的な撮影許可は難しいでしょうね」と寺島さんは話す。

 信仰の対象である仏像を撮影されることに関係者は抵抗はなかったのか。寺島さんによると「許可をいただいたお寺さんは、仏像は布教の役割もあるので、写真を撮ってもらうことでより心に残るのではと話していました」。

 SNSの流行と手軽になった写真撮影の広がりが、芸術鑑賞の在り方を問い掛けている。