農業体験の受け入れを続けている大藪さん夫婦。周辺には美しい茶畑が広がる(京都府和束町原山)

農業体験の受け入れを続けている大藪さん夫婦。周辺には美しい茶畑が広がる(京都府和束町原山)

 宇治茶の主産地として知られる京都府和束町。10月末に修学旅行の団体を迎えることが決まり、濃緑の茶畑が広がる山里がにわかに活気づく。

 受け入れるのは、埼玉県の県立滑川総合高2年生約300人で、修学旅行では過去最大規模という。笠置町と南山城村を含む約100軒の民家に分かれて「農泊」し、住民と食事を作り、茶畑を巡る。

 農泊は、厚生労働省の通知で認められた特例措置で、届け出が必要な民泊や許可制の旅館とは異なる。受け取るのも宿泊料ではなく、「体験料」だ。

 京都府南部・山城地域での農泊は2014年、台湾の中学生40人を和束町活性化センターが町内の約30軒に依頼して受け入れたのが始まり。経験を重ね、今春には笠置町、南山城村と京都やましろ体験交流協議会を設立した。大規模団体に対応する体制が整い、本年度は計約1200人を迎える予定だ。丹波地域でも南丹市の京都丹波・食と森の交流協議会が力を入れている。

 和束町を訪れる年間観光客は10年前に約5万人だったが、17年は町人口の30倍に相当する約12万人に拡大した。抹茶ブームに加え、茶畑の美しい景観が日本遺産に登録され、右肩上がりが続く。ホテルなどの宿泊施設が少ない町の課題を農泊が補う。

 「孫が増えたようなもんで若さをもらってます」

 3年前に農泊を始めた和束町原山の大藪瑞穂さん(78)は国内外から100人以上を受け入れ、茶のいれ方や料理の作り方などを教えながら交流してきた。

 妻の寿子さん(72)は受け入れ後も旅行者らと無料通信アプリLINE(ライン)でつながる。海外から地震や台風の被害を心配するメッセージが届くのがうれしくて英会話も学び始めた。30年前に奈良市から移り住んだが、農泊が新たな人生の扉を開いた。

 宿泊の受け入れ以外にも天体観測のガイドなど特技を生かして参加する住民も現れた。京都やましろ体験交流協議会の下村美香さん(36)は「住民は地域に必要とされていると実感し、町を好きになり、交流も活発になる。町から出ていくこともなくなる」と農泊効果に期待する。

 今年1月、高級宿泊施設を手掛ける星野リゾート(長野県軽井沢町)が進出計画を発表した。23年度には新名神高速道路が開通し、宇治田原町の宇治田原インターチェンジ(仮称)と和束町を結ぶトンネルも完成する。交通利便性が一層向上し、観光客がさらに増えるのは間違いない。

 だが、観光客の増加に伴うまちの急激な変化に不安を抱く住民も多い。同町別所の茶農家、岡田文利さん(57)は農泊で多くの修学旅行生らを受け入れ、観光客向けの茶菓子の開発も進める。観光客は大歓迎だが、農作業中に写真撮影を強要されることなどに「そっと見てくれるだけならいいのですが」と戸惑う。

 町内では茶畑の細い道を自転車でふさがれたり、車で茶畑を傷つけられたりといった事案も起きているという。「どこかの茶園が『観光客お断り』と発信すれば、大変なことになる」と、住民の反発が強まることを懸念する。

 町は、検討中の景観保全条例案に観光客の努力義務として町民の暮らしや仕事への配慮を規定する方針だが、実効性を確保できるか見通せない。増え続ける観光客から住民の生活や地域の景観をどう守るのか。静かな農村部に波風が立ち始めた。

 <連載 まち異変 お宿バブルその5>外国人観光客が急増する京都の宿泊業界で異変が起きている。まちにホテルやゲストハウスがひしめき合い、すでに「バブル状態」との指摘が強まっている。一方で、ヤミ民泊や交通渋滞などによる「観光公害」も深刻化している。国際観光都市の今を見つめ、課題を追う。