天橋立真景図(智恩寺所蔵、丹後郷土資料館寄託)

<ミュージアムのちから コロナ禍に考える>

 京都府立丹後郷土資料館(宮津市)は天橋立を正面に望む。かつて丹後国分寺が置かれた地だ。資料課長の森島康雄さんらは屋上から天橋立を見た絶景を、国分寺が置かれた時代にちなみ「天平観」と呼ぶ。「天橋立真景図」(智恩寺所蔵、同館寄託)など関連展示も多い。

丹後郷土資料館の屋上から望む天橋立。館ではこの絶景を「天平観」と呼ぶ

 昨秋、室町時代の画家、雪舟が描いた国宝「天橋立図」(京都国立博物館所蔵)を展示した。開館50年記念の特別展「天橋立と丹後国分寺」に合わせ、40年ぶりの展示だった。

 新型コロナウイルス感染拡大防止のため春の展覧会は直前に中止。秋も危ぶまれたが、会期短縮もなく開催でき、異例の4150人が来場した。ツアー客はほとんどなかったのに、好記録が生まれたのは地元の人たちが見に来てくれたおかげだ。

 雪舟の「天橋立図」は「たいていの家の玄関か応接間に複製がある」(森島さん)ほど、地域ではなじみが深い。ただ、所蔵する京都国立博物館(京都市東山区)は遠方で、実物を目にできる機会は少ない。

 「本物の雪舟が展示される」との情報が流れると問い合わせが相次いだ。自治会や観光団体は展示に合わせてイベントを組んだ。天橋立に寄せる地元の思いを森島さんは感じ続けた。

 国宝展示は一部期間に限られたが、初の夜間開館も行い、常連客が「こんなに人が多い資料館は初めて」と驚くほどにぎわった。地元の観光団体は、観光業に携わる人のために仕事のない夜間に解説会を希望した。市教委は市内全小学校の5、6年生に見学を勧め、地元・府中小は全校児童が来館した。

 何度も足を運ぶ人がいる。同館にずっと置いてほしいと願う人がいる。森島さんは「文化財をゆかりの場所で見ること」の重要性を痛感した。

 この作品が毎年決まった時期に同館で展示できたら、全国から人が訪れるだろう。雪舟の絵と実物の天橋立を見て「天橋立があったからこそ、この地に国分寺が造られた」との解説を聞けば鑑賞の度合いは深まる。何より地元の誇りになる。

志高遺跡出土 大歳山式縄文土器深鉢(舞鶴市所蔵)

 「国が地方にゆかりの文化財を移譲する道があってもいいのでは」と森島さんは提案する。地方が活力を持つため、文化財が精神的支柱になる可能性は大きい。

 

 京都府立丹後郷土資料館 丹後、丹波にゆかりのある資料を展示。天橋立真景図は江戸後期の富商三井高就が橋立の美しさに感動し、画家島田雅喬に描かせた。細やかな筆致と色使いが目を引く。志高遺跡出土の大歳山式縄文土器深鉢(舞鶴市所蔵)は、整然と付けられた模様の穏やかさが当時の暮らしの豊かさを想像させる。細川幽斎自筆書状など歴史資料、丹後の紡織用具や漁撈(ぎょろう)具なども豊富。宮津市国分天王山。0772(27)0230。)