新型コロナウイルス感染の長期化で日々の暮らしに困窮する人が増える中、生活保護制度を巡る議論が注目されている。

 菅義偉首相は先週、生活保護の申請時に福祉事務所が本人の親族らに援助できないかどうかを確認する「扶養照会」の運用を見直すことを表明した。

 親族に知られるのを恐れ、生活が苦しくても申請しない人が少なくない-とする支援団体などの声を考慮したとみられる。

 一方、照会手続きの撤廃に踏み込むものではなく、見直しに効果があるかは見通せない。

 生活保護は、憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する仕組みである。

 利用を希望する人の心理的抵抗感が申請をためらわせているなら、その要因を取り除くことが政治に求められる。コロナ禍の今こそ、生活保護の役割を正しくとらえ直すことが重要だ。

 生活保護申請は、最初の緊急事態宣言が出た昨年4月に2万件を超え、前年同月比25%増と過去最大の伸び率になった。生活保護に至る手前で困り事相談を行う自治体の支援機関への相談件数も、昨年上半期は前年同期の3倍の約40万件に上った。

 ただ、生活保護申請は、その後減少や微増が続く。厚生労働省は雇用調整助成金など国の支援制度が奏功したとする。

 だが、支援団体の調査では、生活保護を利用していない人の3人に1人が「家族に知られたくない」としており、扶養照会への懸念が申請の頭打ちに関連していることをうかがわせる。

 利用者に対する偏見も、申請控えの背景にありそうだ。

 2012年、家族の受給を巡って芸能人が「扶養できる収入があり、不正だ」と批判され、謝罪会見に追い込まれた。

 それを契機に、不正受給を防ぐためだとして、行政が親族に対して扶養できない理由の説明を求めることを可能にし、資産や収入を記した書類提出を義務づけるなど申請手続きを厳格化する法改正が行われた。

 自治体にも「妊娠で保護は廃止」「預金は数万円まで」など法的根拠がない厳しい指摘を説明文書に記し、申請を門前払いしようとする事例がみられた。

 不正受給の防止は当然だが、利用希望者を意図的に遠ざけるのなら、困窮者の自立を支援する制度の趣旨は実現できない。

 菅氏は「まずは自助」を持論とするが、自助努力だけで生活が成り立たなくなっている人は増加している。そんな状況で、家族や親族に支援を強要したり、生活保護利用のハードルを上げて「公助」の機能を低下させたりするようでは、困った人々は救われない。

 先月下旬の国会答弁で、菅氏は「最終的には生活保護という仕組みもある」と述べ、批判された。国政トップでありながら、申請者が直面する困難さを理解しようとせず、生活保護の前段階の政策立案や支援拡充を考えていないように受け取られたためだ。

 生活保護は国民の権利である。菅氏には、自ら言及した扶養照会の運用見直しの具体策を早急に詰め、使いやすい仕組みに変えていくことが求められる。