半年近く続いた異例のトップ不在が、ようやく解消されることになった。

 世界貿易機関(WTO)の次期事務局長にナイジェリアのオコンジョイウェアラ元財務相が正式に選出された。

 WTOは通商ルールづくりだけでなく、紛争処理でも機能不全に陥っており、「自由貿易の番人」としての存在意義が問われている。

 新事務局長には、正常な機能を取り戻し、世界の貿易活動をより公正で健全な方向へ導く役割を期待したい。

 WTOは昨年8月に辞任したアゼベド前事務局長の後任選定でオコンジョイウェアラ氏を推薦したが、中国の影響が強いとされるアフリカ出身のため米国のトランプ前政権が反対し、難航していた。

 今月に入り、最終選考に残っていた韓国人候補が撤退し、バイデン政権となった米国も方針転換して何とか決着にこぎつけた。女性やアフリカ出身者のトップ就任は初めてだ。

 新事務局長がまず取り組む必要があるのは、通商紛争処理の最終審に相当するWTOの上級委員会(定員7人)の再開である。

 米国は、WTOの判断が中国寄りで、権限を逸脱しているとして任期を終えた委員の補充に反対してきた。このため2019年12月から委員がゼロになり、ルール違反を審理できなくなっている。

 バイデン新政権がどう対応するかは不透明だが、機能不全が続けば不公正な貿易がまかり通ることになる。立て直しは急務だ。

 貿易に関連する国際ルールを定める立法機能も力を失っている。 WTOが多国間の通商ルールづくりを目指した新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)は交渉開始から20年近くたつが、先進国と途上国の貿易自由化を巡る対立から行き詰まり、今は2国間や地域間で協定を結ぶ流れになっている。

 1995年にWTOが設立された背景をさかのぼれば、保護主義の台頭が第2次世界大戦に結びついたことへの反省があった。

 米中の対立や新型コロナウイルスの感染拡大で、保護主義的な動きが広がる現在、WTOは原点に立ち返って自己点検することも必要だろう。

 世界2位の経済大国となった中国が、今なお優遇扱いされる「途上国」の地位にとどまるなど、改革が必要なルールや仕組みは多岐に及ぶ。「貿易立国」である日本も、新事務局長とともに改革を主導する役割を果たしたい。