23年ぶりの書き下ろしアルバムを完成させた岡林信康

23年ぶりの書き下ろしアルバムを完成させた岡林信康

自宅そばの畑で静かな時を過ごす(京都府内)

自宅そばの畑で静かな時を過ごす(京都府内)

 「フォークの神様」と呼ばれた京都府在住のシンガー・ソングライター岡林信康(74)が、23年ぶりに全曲書き下ろしアルバムを完成させた。「これが最後になるだろうなという感慨がある」。岡林が「人生の集大成」と位置づける作品は、どのようにして生まれたのか。

■コロナが大きな引き金になった

 「まだ歌が出てくるんだと、びっくりした」

 1998年に発表したアルバム「風詩」以来の書き下ろし作品をつくるに至った経緯を岡林は振り返る。

 「俺は創作というより私小説として歌をつくってきた。実感を大事にしてきた。年を取って新しい体験が少なくなって、ずっと書けなかった。これまでつくった曲を歌う歌手としてやっていけばいいんだと、それほど悩んでもいなかったけど、まさかの世界同時的なコロナが大きな引き金になったことは間違いない」

■終末的な歌詞、岡林らしい作品多く

 アルバムタイトル曲の「復活の朝」が最初にできたという。「中国かどこかでコロナのために工場がストップして(大気汚染が改善され)青空が戻ったという記事を京都新聞で読んだ。もう人間は自然にとって存在しない方がいいんじゃないかとすら思った」

 終末的とも言える光景を歌詞でつづり、昨年6月に動画投稿サイト「ユーチューブ」上で発表した。

 「それから何曲か、歌がぽろぽろと自分の中から出てきた」

 新型コロナウイルスの感染拡大による日々の変化を歌う「コロナで会えなくなってから」や、老境を明かす「冬色の調べ」のほか、強い指導者を求める風潮にくぎを刺す「アドルフ」など、岡林らしい作品が続く。

 全9曲。「半年ぐらい掛かったかな。今までは2週間ぐらいでつくってきたから、こんなに長い期間ちびちびやったのは初めて」

■半世紀前の曲の「アンサーソング」も

 アルバムの最後を飾るのは「友よ、この旅を」。68年のヒット作「山谷ブルース」B面に収録され、学生運動がさかんな時期に政治集会などでよく歌われた「友よ」の続編という。

 「『友よ』の『夜明けが近い』という歌詞が、未来はバラ色みたいに捉えられてきたようやけど、ここまで生きてくると、夜明けの後にも、また夜が来るの繰り返し。それを味わうのが人生なんじゃないか。そんなアンサーソングをずっと書きたいなと思っていた」

■ライナーノーツに松本隆さん

 ライナーノーツは、今は京都市に住む作詞家の松本隆(71)が寄せた。松本は伝説のバンド「はっぴいえんど」として岡林のバックバンドを務めた「盟友」。昨年11月に京都コンサートホール(京都市左京区)から生配信された松本の活動50周年記念ライブに岡林がサプライズで登場し、約30年ぶりという再会を果たした。「あの後、楽屋で立ち話程度だったけど、ずっと会いたかった」。ライナーノーツには「仲間」への特別な思いがにじむ。

 アルバムのテスト盤を聴いた、ある友人の感想が励みになったという。

 「同世代の生き方を肯定してもらってうれしかったと言ってくれた。喜びも悲しみも全てかみしめている。それが今の心境かな」

 アルバム「復活の朝」は3日発売。3300円。