東京五輪聖火リレーのスタートまで、1カ月を切った。

 本番が目前に迫る段階で、大会組織委員会が実施に向けた新型コロナウイルス感染症対策のガイドラインを公表した。観客に「密」の回避を求めた上で、沿道での観覧を認めるとした。

 組織委の橋本聖子会長は「安全最優先で進めていく」と強調した。ただ、感染を広げることにつながらないかとの懸念は根強い。国民が納得して応援できる体制を構築できるかが問われる。

 ガイドラインでは、観客には居住する都道府県以外での観覧は控えるよう求めた。マスクを着用し、大声を出さずに拍手で応援するといった注意事項の順守を呼び掛けている。

 ランナーには2週間前から体調をチェックし、会食は控えてもらう。沿道に多くの観覧者が殺到する可能性がある著名人ランナーについては、入場制限ができる競技場や公園を走ってもらう方針を示した。

 だが、盛り込まれた対策の多くは呼び掛けにとどまる。不特定多数の人が集まるイベントだけに実効性があるのか疑問だ。

 密集を避けるためとして、インターネットのライブ中継視聴も促してはいるが、組織委の担当者は記者会見で「密を回避できるのであれば、ぜひ沿道で応援を」と述べた。人出が増えれば密が生じやすくなる。ガイドラインと矛盾していないか。

 一方で、過度の密集が生じればリレーを中断する場合があるとしたが、どのような状況になれば判断するのかの基準は示していない。想定される事態に備えておくことは「安全最優先」の運営の基本であるはずだ。

 聖火リレーは昨年、五輪の1年延期が決まったことに伴い、開始の2日前に取りやめになった。組織委は1年後の実施に向け、コスト削減の観点から隊列の車両やスタッフ数などを一部見直したが、コロナ禍を踏まえた実施の在り方については、十分に検討されることなく現在に至っている。

 リレーを、疲弊する経済の再生や地域の魅力発信につなげたいとする自治体がある。一方、ここへ来て、実施に反対する意見も出ている。丸山達也島根県知事は政府や東京都の感染対策を批判して、県内のリレー中止を検討すると表明した。

 丸山氏は、感染が続く中での五輪開催も疑問視しており、発言は共感も呼んだ。国民の間に五輪自体の開催に懐疑的な意見が少なくないことを示していよう。

 五輪は、海外からの観客を受け入れるかどうかを判断する時期がようやく決まった段階だ。大会本体の開催が不透明なままリレーの実施方針が示されても、国民は戸惑うばかりだ。

 ガイドラインの公表を受け、京都府や滋賀県の実行委員会も聖火到着の式典観覧を事前予約制にするなどの検討を始めたが、計画の変更に追われる現場からは困惑の声が上がっている。

 こうした状況で聖火リレーを始めても、国民の五輪ムードは盛り上がるまい。東京五輪も開幕予定日まで5カ月を切っている。開催の可否を含め、決断に残された時間はわずかだ。