孤独は健康に悪影響を及ぼすとして3年前、英国で「孤独担当大臣」が任命された。

 それに倣ったのだろうか。菅義偉首相が坂本哲志1億総活躍担当相に孤独対策を所管させ、担当部局を新設した。省庁横断的な連絡調整会議も設ける。

 新型コロナウイルス禍で顕在化した自殺や失業など「孤独・孤立」問題に取り組む構えだ。

 コロナ禍では、全国民に特別定額給付金10万円を支給するなどさまざまな対策がとられた。

 だが、孤独感に陥ったり、周囲から孤立したりする個人の事情に踏み込んだケアは十分とは言えない。コロナの直接的な影響がなくても、生活困窮などの対応が必要な人は少なくない。

 従来の政策から取り残された人々を救う総合的な対策を打ち出すなら画期的といえる。知恵を出し合い、実効ある取り組みにしていかねばならない。

 人口減、少子高齢化で日本人の「孤独化」は加速している。

 半年以上も家族以外とほとんど交流しない40~64歳のひきこもりの人が全国に61万人いるとのデータが2年前に示された。

 低下傾向にあった自殺者数がコロナ禍の昨年、11年ぶりに増加に転じたのも気になる。

 2040年には世帯主が65歳以上の高齢世帯は総世帯数の4割に達し、うち40%が1人暮らしになると推計されている。

 孤独なようすは見えにくく、当人も自ら声を上げにくい。それだけに、政府は困窮している人の実態把握を能動的に行い、支援につなげる必要がある。

 ただ、菅政権が言う「孤独」「孤立」の定義は明確とは言えない。何をどこまで達成すれば十分なのか、目標とする指標もはっきりしていない。

 今のところ、高齢者の介護予防や見守り、子ども食堂やフードバンク、自殺防止、ひきこもり支援など多岐にわたる政策の深掘りが想定されている。

 これらにとどまらず、支援から抜け落ちた人への新たな救済策を講じなければならない。

 省庁の縄張り意識の克服も課題だ。想定される対策は内閣府をはじめ厚生労働、文部科学、農林水産など各省にまたがる。

 現行施策の問題点を率直に指摘し合い、足りない点を補うよう活発な議論を深めることが必要だ。民間支援団体など外部の意見もしっかり聞いてほしい。

 気になるのは、政局がらみの思惑が垣間見えることだ。孤独対策はもともと国民民主党が3年前の参院選の公約に掲げ、担当相設置を求めていた。

 それを菅政権が全面的に取り込む形にしたのは、秋までにある衆院選で争点になり得る要素をつぶしたとも受け取れる。

 自民党も、次期衆院選の公約に孤独問題を盛り込む考えを示している。選挙で論争が活性化することは望ましいが、有権者の関心を引くためのメニューづくりを優先させ、議論を表面的なものにしてはなるまい。

 孤独や孤立からの脱却は、個人の自助努力だけでは難しい。行政と地域が協力して手を差し伸べる「公助」の仕組みをどう作り直すかが問われている。