神坂雪佳図案「客室」(1933年) 京都家具工芸研究会出展

<ミュージアムのちから コロナ禍に考える>

 桐(きり)のたんすの引き出しを閉めると、下の引き出しが手前に2センチ近くも押し出される。気密性が高いからだ。寸法はもちろん部材どうしの性質も考えて隙間のないように作る。京指物資料館(京都市中京区)に並んだ家具から一つ一つが丁寧に作られていた時代が見えてくる。

桐のたんす(2011年) 蒔絵は服部峻昇「季の彩」

 このたんすは漆芸家服部峻昇さん(1943~2018年)の蒔絵(まきえ)「季の彩(ときのいろどり)」が施されている。「時間とともに赤が透け、明るい色調に変わってきた」と館を運営する家具会社「宮崎」会長宮﨑真里子さんは話す。

 宮崎は若い工芸家の修業を受け入れており、服部さんもその一人だった。同社は明治以降、高級家具の図案や表面に施す蒔絵の下絵を京都画壇の画家にも依頼している。神坂雪佳や上村松園、堂本印象らの下絵が館の展示の中心となっている。

 1915年、宮崎の3代目当主、平七は日本画家に書棚のデザインを依頼し、製品にして展示する「画伯考案書棚展覧会」を開いた。今尾景年、菊池芳文、山元春挙、木島櫻谷ら26人が参加した。竹内栖鳳考案の「梅月の棚」は扉に梅の絵、棚全体は月の字形、枠組みに銀粉が塗られ、おぼろ月のように闇に浮かんで見えたという。芸術家と産業界が協力して京都の発展を支えた時代を象徴する。

 栖鳳らの意匠が映えたのは、繊細な京指物の特質も大きい。細い枠組み、丸く整えた角、軽く美しい桐の素材。棚や広蓋には、神坂雪佳らが直接筆で絵を描いたものもある。雪佳は室内調度全体の意匠も手がけた。敷物、たばこ盆、文机、掛け軸。色や柄についての指示が書き込まれている。婚礼時に調度品全てをあつらえる客も多く、雪佳の図案は同社が室内装飾分野に進出するきっかけとなった。

 上村松園が花嫁を描いた掛け軸も残る。春と秋の婚礼調度展示会を飾る特別な作品だったという。「お嫁入りの決まった方が半年かけて道具類を調えられる。昔の婚礼は大がかりだった」と宮﨑さんは振り返る。松園も近所の婚礼を手伝いに行き、花嫁と母親の姿を代表作「人生の花」などに残している。

1936年、宮崎家具本店新装開店時のパンフレット。京都画壇の画家、中村大三郎が原画を手がけた

 婚礼調度を華やかに並べ、近所の人に見せた時代。画家や職人の仕事が人々の暮らしの中に生きていた。館は京指物の技術とともに、そんな時代の空気も伝える。

 

 京指物資料館 京指物の伝統を受け継ぐ宮崎が2010年開設。同社が伝えてきた美術品、図案、家具を展示する。神坂雪佳が図案を描き、弟の祐吉が蒔絵を施した硯(すずり)箱は、表が斎王の絵、蓋裏に和歌をしたためた逸品。完成品のほか桐から黒檀(こくたん)まで多様な木材のサンプルを手に取って質感や重さを感じたり、枘(ほぞ)接ぎなど京指物の技に触れることもできる。京都市中京区夷川通堺町西入ル。075(222)8112(宮崎木材工業総務部)。見学には予約が必要。現在は新型コロナウイルス感染拡大防止のため休館中。