「非核化」で合意を得るには、米国と北朝鮮の隔たりがあまりに深かったということだろう。

 ベトナムのハノイで8カ月ぶりに行われたトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による2度目の首脳会談は、合意文書の署名すらできなかった。

 両国の交渉が一筋縄でいかないことを改めて示す結果となった。

 合意できなかった理由についてトランプ氏は記者会見で、「北朝鮮側が制裁の完全解除を求めてきたため」と説明した。

 いきなりハードルの高い要求を掲げた北朝鮮はトランプ氏の出方を読み違えたのか、それとも意図的に翻弄(ほんろう)するつもりだったのか。

 米側も簡単に応じることはできないと判断したのだろう。

 いずれにしても、非核化につながる具体的な成果を得られなかったことは残念だ。

 ただ、トランプ氏は「今後も話し合いは続けていく」と繰り返した。決裂ではなく、交渉が継続されることに望みをつなぎたい。

 両国は非核化に向けた具体的な折衝を積み重ね、朝鮮半島の緊張緩和の流れを確かなものにしてほしい。核・ミサイル開発を巡って一触即発の状態が続いた一昨年以前の状況に戻してはならない。

■避けた「安易な妥協」

 今回の首脳会談に向けた実務協議の過程で、米側は、完全非核化に向けた行程表づくりのため、北朝鮮が保有する核・ミサイルの実態申告や、核開発拠点である寧辺の核施設の査察や廃棄などを求めたという。

 これに対し、北朝鮮は非核化への「相応の措置」として、制裁解除や韓国との間で進める南北経済協力を認めるよう求めた。申告を巡っては「攻撃目標を教えろと言っているようなもの」と拒否、既に保有する核兵器の申告や一方的な破棄には応じなかった。

 首脳会談で北朝鮮は寧辺の核施設廃棄への意思を示したとみられるが、寧辺は老朽化して重要性が低下しているとの指摘もある。米側が制裁解除に釣り合う条件として「十分ではない」と考えたのもやむをえまい。

 非核化とは何をどこまで満たすことが必要なのか。その認識の違いや実現に向けた具体策を実務者レベルでも詰め切れないまま「見切り発車」の状態でトップ交渉に委ねた異例の首脳会談だった。

 その意味では、安易な妥協を避け、冷却期間を置いて仕切り直すとした判断は、必ずしもマイナスとは言い切れない。

 トランプ氏は首脳会談は友好的だったとした上で、合意文書に署名しなかった理由について「急ぐより正しくやりたい」と語った。

 非核化交渉は、東アジアに残る冷戦構造の終息に向けた折衝ともいえる。互いの真意を慎重に探りつつ、次回に前進が得られるよう具体的な協議を続けてほしい。

 首脳会談前には、仮に非核化で進展がなくても、両国による朝鮮戦争の終結宣言や相互の連絡事務所設置などで合意する可能性が取りざたされていた。

 こうした米朝間の新たな関係づくりも含め、東アジアの安全保障を念頭に大きな視野で最適な結論を探る努力が双方に求められる。

■抜け道に監視の目を

 ただ、今回の首脳会談は、北朝鮮ペースで進んだ印象だ。

 トランプ氏が再会談に応じたのは国境の壁建設を巡る政府機関閉鎖の責任を問われ、ロシア疑惑で腹心の元顧問弁護士に議会で偽証させた疑いを持たれていた時期だった。内政の失点を外交でカバーしたい思惑を見透かされていた。

 一方、金氏は1月に「これ以上核兵器をつくらない」と明言した後に訪中し、米朝会談への支持を取り付けた。貿易を巡る米国との対立をにらみ、北朝鮮を引きつけておきたい中国の意向を踏まえたとみられる。

 韓国とは昨秋の首脳会談で米側に「相応の措置」を求めることで共同歩調をとった。韓国の文在寅大統領は、開城工業団地の再稼働や金剛山観光の再開など南北経済協力を「相応の措置」に位置づけるよう米側に働きかけている。

 中韓を引き込み、対米交渉にあたるしたたかさが際だった。

 ただ、北朝鮮については、制裁をよそに、海上で積み荷を移し替える「瀬取り」による密輸が横行しているとも指摘される。国連安全保障理事会の専門家パネルは、北朝鮮が制裁の網をくぐり抜けていると指摘する。

 交渉の継続と同時に、こうした抜け道にも監視の目を光らせなければ、時間稼ぎを許すことになる。硬軟両面の対応が必要だ。

■「拉致」に独自戦略を

 日本が最大の懸案とする拉致問題については、昨年6月の1回目の首脳会談に続き、トランプ氏が金氏に伝えたという。

 安倍晋三首相は「次は私が金氏と向き合わなければいけない」と述べたが、北朝鮮は「拉致問題は解決済み」と主張している。

 今回の首脳会談が不調に終わったことで、日朝が歩み寄る機会を設ける可能性は低くなったと言わざるを得ない。早期の問題解決には、米国頼みではなく独自のアプローチも必要ではないか。戦略の練り直しが急がれる。