あの惨状を忘れてはなるまい。

 東日本大震災の発生から、きのうで10年がたった。東北の被災地はもとより、いまも帰れぬ避難者や元住民、全国の人々が犠牲者をしのび、復興の歩みに思いを寄せた。

 被害が大きかった岩手、宮城、福島の3県も、大がかりな復旧・復興工事で新たな市街地が造られ、震災の爪痕が見当たらないほど様変わりした地域もある。

 菅義偉首相は、10年を節目に「復興の総仕上げ」を掲げ、一つの区切りとして政府主催の追悼式を今年で最後とした。

 一方、被災地では住民の生活再建とともに、遠のく惨禍の記憶を風化させず、引き継ぐための取り組みを強めようとしている。

 全国各地で大災害が相次ぐ中、何が命をつなぎ、なぜ救えなかったのか、大震災の教訓を伝えていくことは、犠牲を繰り返さないための私たちの責務といえよう。

 復興事業で大半の被災施設が撤去された中、災害のすさまじさを姿にとどめる「震災遺構」が東北の各地に残された。

 宮城県気仙沼市の高校旧校舎では、がれきと共に3階教室に流れ込んだ車が残され、大津波の脅威を伝えている。児童と教職員の計84人が津波の犠牲となった同県石巻市の大川小校舎も保存され、来月にも一般見学者を迎える。

 保存を巡っては各地で「目に見える証し」「思い出してつらい」などと賛否が割れた。あえて生々しい惨状を将来世代に引き継ごうという思いを受け止めたい。

 ただ、小さな自治体で維持管理の負担は重く、コロナ禍での来場者や寄付金の減少から有料化や規模縮小の動きもある。防災を学ぶ貴重な遺構であり、国の援助を含めて支える仕組みが必要だろう。

 大災害の現実と教訓を、被災者自身が体験から伝える語り部活動も大きな役割を果たしている。発生時に小中学生だった若者らも加わりつつあるのは心強い。

 東北3県の語り部ら約70団体・個人約500人の連携組織によると、コロナ禍で伝承ツアー参加者が激減し、オンラインで語る活動を工夫しているという。全国と結んで防災教育を広げてほしい。

 大震災の教訓を引き継ぐべきは被災地だけでない。この10年間に京都、滋賀を含め全国から救助や医療、インフラ復旧、自治体事務の応援、各種ボランティアらが現地入りして活動した。得がたい経験を各地の災害対策に還元していくことが重要だ。