「(人前での演奏は)緊張するし、嫌やなと思う時もあるけど、ここはグランドピアノが弾けるのでうれしい」。こう話すのは小学2年の女の子(8)=伏見区。近くコンサートに出演する予定で練習のために母親と訪れた。聴衆の視線が集まる中、ドイツの作曲家リヒナーのワルツ「舞踏の時間に」を堂々と披露した。「コンサートでは先生に言われたようにリズムを大切に弾けるようにしたい」と意気込んだ。

 京都タワーが目の前にあるロケーションも人々を引きつける。夜間はライトアップされ、幻想的な雰囲気に。終了時刻前、仕事帰りに駆けつけたのは会社員の男性(52)=山科区。ピアノは独学で「楽譜も読めない」と謙遜しながら、歌謡曲など数曲をさらりと弾いた。「夜景がきれいでムードがいい。ここで弾くと、うまくなった気持ちになれます」と笑う。

 弾き手それぞれの個性や思いがあふれる演奏は、聴く人にどう響くのか。テレビ番組で駅ビルのピアノを知り、演奏を聴きに来た東山区の男性(74)は「プロじゃなくても上手な人がいるんですね。音に勢いがあります」と感激した様子。京都駅近くで英語を学ぶ女性(73)は「クラシックが大好き。ここなら生で聴ける。心に潤いをもらっています」。美しいメロディーにうっとりと聞き入った。

■商業施設やサービスエリア、お寺でも 広がるストリートピアノ

 ストリートピアノは2008年、英国バーミンガムから世界に広がったとされる。日本では11年に鹿児島中央駅(鹿児島市)近くの一番街商店街に置かれたのが最初とされ、その後各地で設置が進んでいる。

 京都府内では京都駅ビルのほか、ゼスト御池(中京区)やトロッコ嵯峨駅(右京区)、滋賀県内は名神高速大津サービスエリア(大津市)や西方寺(草津市)などに自由に弾けるピアノがある。

 京都市上京区の府立文化芸術会館は昨年秋から、府庁旧本館で長年使われていたアップライトピアノを譲り受けて「広小路ピアノ」として活用する。河原町通に面し、近くの府立医大の学生らの演奏に足を止める通行人も多い。雨宮章館長(63)は「ピアノの音色が流れてくると、何気ない空間が華やかになる。(新型コロナウイルス禍の)こんな時だからこそ、多くの人にピアノに触れてほしい」と願う。

 全国には趣向を凝らしたピアノがあり、現代芸術家の草間彌生さんがデザインした水玉模様の東京都庁のグランドピアノなどが有名だ。各地を巡るファンもいて、アルバイト太田弘志さん(27)=大阪府交野市=は、静岡県浜松市のJR浜松駅と神戸市の三井住友銀行神戸営業部にあるピアノがお気に入り。「聴いている人を楽しませるのがストリートピアノの醍醐味。旅行が好きで旅先にピアノがあれば弾いている」と話す。