京都大の曽我部真裕教授

京都大の曽我部真裕教授

 インターネットにあふれる誹謗中傷に、どんな対策があるのか。昨年4月にツイッター・ジャパンなど事業者17社と学識者らが設立した一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構(SMAJ)は「言葉は刃にもなり、集まれば銃弾の雨にもなって誰かの全てを奪ってしまうこともある」と、会員制交流サイト(SNS)利用者に呼び掛けている。共同代表理事に就いた京都大法学研究科の曽我部真裕教授(憲法)に聞いた。

 技術に合わせた法改正を

―SMAJは木村花さんの死を受け、緊急声明を出した

「表現の自由や通信の秘密を最大限尊重しつつ、禁止事項の明示や違反への利用停止措置等の徹底、捜査機関への協力などを表明した。特別委員会を設置し、青少年だけでなく大人を含めた健全なSNS利用に向け検討している」

「SNSでの誹謗中傷は新しい問題ではなく、かねて指摘されていた。リアリティー番組には『役柄』と本人が一体視され、攻撃される特有のリスクもある。それでも痛ましい事件が起きてしまった。木村さんの場合、ある意味『劇場型』で、リストカットなどリスクを抱えていることがネット社会で注目されていたのにもかかわらず、SNSが抑止する方向ではなく、逆に攻撃をあおってしまった。『たたいてもいいんだ』という人が現れると、どんどんそれに乗っかりたたく人が増えてしまう」

―ネット上の権利侵害対策としてプロバイダ責任制限法があるが、総務省が2020年春立ち上げた「発信者情報開示の在り方研究会」でも座長を務めた。どんな検討をしたのか

「ネットのテクノロジーが変化すると、発信者情報開示の在り方も変わる。発信者情報開示は、既に権利侵害がなされ、その法的責任を問うために発信者を特定するための手続きで、すでに存在する法律に関して、時代に合わせた改正に取り組んでいる。事業者の自主規制で問題になるのは、投稿削除や、フェイクニュース・誹謗中傷に対する警告の在り方だ。『○○の場合は警告を出せ』と法律で義務付けしようとしても、SNSやネットの技術が変われば変わることなので、法律では書きにくい」

―人工知能(AI)を用いて投稿を自動巡回し、監視するテクノロジーを導入しているSNS事業者がある。フィルタリングする技術が進歩すれば、誹謗中傷を抑止できないか

「通信の自由、表現の自由は大切で、守らねばならない。『殺す』『死ね』というキーワードだけなら抽出可能かもしれないが、単語だけで一律にSNS投稿を削除対象とするのは難しい。芸能人に対するネガティブな投稿も、番組批判なのか本人への論評なのか区別しにくく、テレビ番組という公共性のあるものを論評する『自由』もある。大量の批判にさらされている本人にとっては大きな心の負担でも、投稿一つ一つでみると、ネガティブな表現ではあっても違法とまでは言えず、削除してもらえないケースは往々にしてある。それは一つの限界だろう。発信者情報開示に基づく損害賠償の請求は手続き負担も伴う。多数者から一斉にたたかれる事態の被害回復には有効ではない」

―法規制でネット上の誹謗中傷に対処できるのか

「フランスでは、通報から24時間以内に投稿削除をSNS事業者側に義務付け、応じない場合は高額罰金を科す法案が議会を通過したが、違憲判断が出た。ドイツの『ネットワーク執行法』は事業者側に苦情や削除対応の実績公表を義務付け、透明性を高めることに主眼を置いた。ドイツではヘイトスピーチがわいせつ犯罪同様に犯罪で、違法投稿で削除対象だ。ただ個人に対する誹謗中傷であれヘイトスピーチであれ、SNS事業者の個々の削除判断が正しかったかどうかについて事後的に法的な責任を問うような仕組みをとってしまうと弊害も大きい」

「誹謗中傷は根本的には書き込む人間のモラルの問題であり、対策に決め手はない。啓発も技術的な対策も含め、さまざまな対策を組み合わせていくしかない。木村さんの事件は、誹謗中傷した人物が特定され刑事処分されうると、社会に知らしめた。匿名投稿でも責任を問われることを伝えていくことも重要だ」