人類共通の課題である地球温暖化対策について国内の司法で争うことはできないのか。そう思わされる判決だ。

 神戸市灘区で神戸製鋼所が設置を進めている2基の石炭火力発電所の手続きに違法性があるとして周辺住民が起こした行政訴訟の判決が先週あり、大阪地裁は訴えを退けた。

 原告は、環境影響評価(アセスメント)で微粒子状物質「PM2・5」について評価しないなどアセスメントに瑕疵(かし)があるのに、変更手続きをする必要がないとした経済産業省の決定は違法だと訴えた。

 判決は、PM2・5について調査や予測をしなかったとしても行政の裁量の範囲内で違法とまではいえない、と退けた。

 現行法では火力発電所の設置は許可制ではない。このため環境アセスメントが適正に行われたという通知が事実上の許可証になっている。

 PM2・5が環境に与える影響などに踏み込まず門前払いをしたことは、環境アセスメント制度の存在意義を骨抜きにしかねないのではないか。

 石炭火力発電所から排出される大量の二酸化炭素(CO2)も争点となった。

 原告は、CO2による温暖化が健康などに被害を及ぼす危険性があることと、日本がパリ協定を批准して温室効果ガスを減らす国際義務を負っているのに、パリ協定に沿った排出規制がないことは違法だと主張した。

 これについても地裁は、温暖化被害は住民だけに及ぶものではないとして、原告には訴訟を起こす適格性はないと断じた。

 日本の裁判は行政の裁量を広く認める一方、行政の判断や処分に対し住民が訴訟を起こす適格性を狭く捉える傾向があるとされる。今回の判決でも、それが明確に表れた。

 欧州ではCO2排出がもたらす温暖化被害を人権問題として捉え、救済につながる裁判判決が続いている。

 日本の裁判所も、従来の行政訴訟の判決枠組みに固執するのではなく、CO2排出がもたらす温暖化被害の本質に立ち入って審理するべきではないか。

 菅義偉政権は「2050年に温室効果ガス排出実質ゼロ」を打ち出している。一方で、日本ではこの数年で20基の石炭火力発電所が新たに稼働し、10基が建設中だ。

 国連のグテレス事務総長が日本を念頭に「2030年までに石炭火力発電を廃止すべき」と繰り返し述べるなど、国際的な批判が高まっている。

 原告団は、計画される2基の石炭火力発電所から排出されるCO2は年間700万トンで、現在の神戸市全体の排出量を上回ると指摘する。稼働すれば、市民の地道な温暖化防止の取り組みをないがしろにしかねない。

 今回の裁判では、環境アセスメントや温暖化被害も行政裁量の壁に阻まれて法的な検証がしにくい実態が浮かび上がった。

 原告は控訴するという。国は司法の判断にかかわらず責任を持って実効性ある温暖化対策に取り組むべきだ。