簡易宿所などに相次いで変わった路地沿いの長屋。今はその多くが観光客の出入りがなく、ひっそりとしている(京都市東山区・六原学区)

簡易宿所などに相次いで変わった路地沿いの長屋。今はその多くが観光客の出入りがなく、ひっそりとしている(京都市東山区・六原学区)

六原学区

六原学区

 世界遺産・清水寺に近く、観光客の急増が住民生活に影響を与える「オーバーツーリズム」(観光公害)の象徴的なエリアだった京都市東山区の六原学区。路地沿いに並ぶ昔ながらの長屋などが、簡易宿所や住宅宿泊事業法に基づく民泊へ相次いで姿を変え、レンタル着物姿の訪日外国人観光客が多く歩いていたが、昨年からの新型コロナウイルスの世界的流行に伴い、一変した。


 「お宿バブル」最盛期だった2018年11月、記者は六原まちづくり委員会の菅谷幸弘委員長(68)と同学区を巡った。今月中旬に再び一緒に歩いて見えてきたのは宿泊施設の休業や撤退、建設計画変更だった。


 複数の借家が取り壊されてホテル建設の予定だった土地は、広大なコインパーキングになっていた。五条通に面した陶器販売店など4軒があった場所は、昨年3月に着工して今月に完成予定という看板が掛かったまま、更地の状態だった。


 長屋が相次いで簡易宿所に変わった路地では、今は多くの宿がのれんを外し、郵便受けにチラシがあふれそうなほどたまっており、観光客が出入りする様子は感じられなかった。


 「お宿バブル」の頃、この路地一帯では観光客がキャリーケースを引く音が響き、ごみが路上にポイ捨てされた。近くの住民によると、簡易宿所と間違って自宅に入ってこられたり、自宅前に止めていた自転車を勝手に使われたりしたこともあった。住民たちは今、一様に「見知らぬ人が歩かなくなり、静かになった」と安堵(あんど)する。


 オーバーツーリズムがピタリと止まった今、果たして、まちは元通りに戻ったのか。さらに奥へと歩みを進めた。

 オーバーツーリズムに揺れ、新型コロナウイルス禍の現在は静けさを取り戻した京都市東山区の六原学区。市が公表しているホテルや簡易宿所、民泊などの一覧に登録されている数は、今年1月時点で計127件。2015年時点の計24件から、約5年で5倍以上に増えた。「学区は30町内あるが、1件もないところはなくなった」と、六原まちづくり委員会の菅谷幸弘委員長(68)は語る。


 六原学区は清水寺からほど近い位置とはいえ、もともと「観光のまち」ではなかった。敷地が小さい家などが密集した古い街並みが広がり、京の伝統産業を支える職人らが暮らした。高度経済成長期以降に若い世代が流出したものの、近年は市立小中一貫校が学区内に誕生したのを機に、高齢化で多く発生した空き家再生を通じ、まちづくりに地道に取り組んできた。


 ところが、訪日外国人観光客が急激に増えると、空き家や民家は宿泊施設に次々と変わった。不動産業者が歩き回り、高額な取引が相次いだ。19年に「老後資金2千万円問題」が広がると、菅谷さんのもとには、高齢の住民から「家を売って老後資金に充てたい」という相談も相次いだ。