認知症による行方不明者数の推移

認知症による行方不明者数の推移

 認知症の人が線路内に立ち入って列車の運行を止めたり、外出中に他人にけがをさせたりして損害賠償を求められたときに備え、自治体が公費で保険料を負担する制度の普及が進んでいる。

 認知症の人を被保険者とし、自治体がおおよそ1人当たり年額千~2千円程度の保険料全額をまかなう。賠償金の限度額はおおむね1億~3億円。

 最高裁判決を受けて17年11月に神奈川県大和市が導入。認知症関連団体のまとめによると、現在は全国で50前後の自治体が導入した。京都や滋賀でも昨年度に京都市や京丹後市、草津市が始めた。「万が一の際も安心だと家族の評価は高く、加入を広げていきたい」(京丹後市)という。城陽市も新年度に始める予定だ。

 これまで京滋での賠償金支払いはないが、神戸市では実施から2年で計7件に支払われた。排せつがうまくいかずにレストランのソファを汚したクリーニング代と営業補償(約13万円)、他人の自転車を持ち帰って損傷させた修理代(約1万6千万円)など。

 ただ、制度に対して「個人の損失を補うために、なぜ市民の税金を使うのか」と否定的な意見も根強い。神戸市は制度導入時、全戸配布の広報で「1人当たり年間400円の負担で支え合う」と、あえて「市民の負担」を強調した。「認知症は加齢に伴うもので、いずれ誰もがどこかで直面する。人ごとでなく、全ての市民に関わることと理解してもらうきっかけにしたいと考えた」と担当者は話す。

 制度は家族だけでなく、個人や事業者の損害を適切に補う意義もある。ただ制度はあくまでも「対症療法」。認知症の人が行方不明にならずに安心して外出できるまちづくりが求められている。

 東京都世田谷区が昨年10月に施行した「認知症とともに生きる希望条例」は、本人の意思と権利がどこででも尊重される社会の実現を掲げた。条例案策定に関わった認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子部長は「賠償保険だけが先行すると、かえって『認知症の人は事故を起こす危険な存在』と誤った認識が広がりかねない。認知症があっても安心して外出できるまちづくりに向けて、行政が方向性を示し、市民や事業者の力を束ねてほしい」と話している。