滋賀県東部の愛知川にかかる赤い鉄橋は、鉄道ファンにはよく知られる。明治期に造られた英国式の鉄道用橋梁(国登録有形文化財)で、120年たった今も現役だ。

 そんな歴史あるローカル私鉄、近江鉄道線の公有民営化が決まった。線路や駅などの施設を自治体に譲り、鉄道会社は運行のみを担う「上下分離方式」に2024年度に移行する。施設が老朽化している上、40億円超の累積赤字を抱え、経営困難として自治体に支援を求めていた。

 沿線の10市町と県は、地域公共交通活性化再生法の下、鉄道施設を保有して修繕や設備投資費を負担する。負担割合を県50%、駅数などに応じて東近江市20・67%、彦根市8・91%などとすることが今月まとまり、33年度までの10年間の支援プランづくりはヤマ場を越えたかたちだ。

 近江商人の拠点を結んで1898年に開業した近江鉄道は、現在は西武傘下で県東部に計33駅、60キロの路線をもつ。大正期に建てられた新八日市駅はドラマのロケにも使われた洋風レトロな木造駅舎。21世紀になって事業所近くに開業した駅も二つあり、全線の乗客数は2002年度の369万人を底に、19年度は475万人に増加した。

 それなのになぜ赤字が拡大しているのか。同社は安全運行にかかる設備投資が年々増えているというが、説明も理解も行き渡っているとはいえない。

 公有民営化とは、鉄道に乗らない人も含めた納税者が広くコストを負担するということだ。10年間にかかる施設の修繕・設備投資費は、国が設備投資費の3分の1を、残りを県と市町が2分の1ずつ持つというが、具体的にいくらかかるのかはいまだ示されていない。

 県と市町はこれまでにも同社に、1998~2011年度に計31億円、12~21年度に計14億円の財政支援をしている。施設の公有化に伴って国の補助が見込めるとはいえ、今回は県・市町の過去の支援規模を大きく上回る可能性がある。

 同社と自治体は、経営状況をより丁寧に説明するとともに、今後のコストの見通しを速やかに示す必要がある。

 新型コロナウイルス禍で国と地方の財政は傷んでいる。外出自粛で減った乗客が今後戻ってくる保証はなく、沿線人口減が本格化するなど鉄道会社を取り巻く環境も厳しい。もともと近江鉄道線は、1キロ当たりの1日平均乗客数を示す輸送密度が、路線維持の基準とされる2千人に届かない区間がほとんどを占める。コロナ禍で逆風がさらに強まる中での再出発となる。

 歴史ある路線の存続を多くの住民が願いながらも、移動手段には車を選んでいるのが現実だ。利便性やサービスの向上へ、同社にはより一層の経営努力が求められる。

 併せて自治体には、10年後の地域社会を展望し、まちづくりに鉄道がどう貢献するのか、その貢献度は投じる公費に見合っているか、折々に検証する視点が欠かせない。