故郷の大熊町を走る坂本さん

故郷の大熊町を走る坂本さん

 楽しい200メートルだった 坂本さん-。

 福島県で3月25日に幕を開けた東京五輪の聖火リレーを取材した翌朝、県内の駅で地元紙を買い、ページをめくっていると、この見出しに目がとまった。

 坂本さんとは、ルートインホテルズ(東京都)女子陸上部の坂本ちほ選手(24)。故郷は福島第1原発が立地する大熊町で、町内の区間を聖火ランナーとして駆けた。

 2011年の原発事故から半年ほど過ぎた頃、中学生だった彼女に会った。京都で開催される全国女子駅伝の連載取材のため、福島へ。線量計を携えて。

 坂本さんは地元の有望選手。その自宅は原発から4キロの場所にあり、一家でいわき市に移り住んでいた。

 急な避難指示でも競技用の靴とジャージーは忘れなかったという。取材の後、彼女は真っ暗になった外に出て、母のバイクの明かりを頼りに走り始めた。

 「帰りたいです。けど帰れない。走りたいけど、走れない」

 離れてしまった町への思いを、そう語っていた。

 あれから10年。コロナ禍の中で聖火リレーが始まった。復興が進んだ見栄えのいい区間を選んでいる、との批判もつきまとう。暗部に目をそらすつもりはない。ただ、一人一人の気持ちには寄り添いたい。

 大熊町は、今も大部分が帰還困難区域にある。聖火を運んだマスク姿の坂本さんは、インタビューにこう答えている。

 「10年ぶりに大熊町を走ることができ、とても楽しかった」