野口謙蔵「五月の風景」 1934年

<ミュージアムのちから コロナ禍に考える>

 1984年に開館した旧滋賀県立近代美術館は、先鋭的な企画で人気だった。戦後アメリカの美術やコンテンポラリーアートなど、ここでしか見られない展覧会のために美術ファンが県外からも足を運んだ。2020年4月に学芸課長に着任した池上司さんもその一人だった。

 
狩野派「近江名所図」 室町時代(16世紀後半)

 だが、「拾えていない分野も多い」と池上さんは指摘する。その一つが地元に関する企画だ。滋賀は文化財に恵まれ、同館も室町期の「近江名所図」(重要文化財)などの名品を所蔵する。これまで紹介の機会が十分ではなかったが、今後は新しい視点で見せる予定だ。「地域に応援される美術館でありたい。そうでないと続かない」

 長く美術館で働く池上さんには近年、「ミュージアムの限界」が見える。ミュージアムという概念は近代にできた。企画展を開き、作品を購入してコレクションを充実させ、調査・研究を行う。その枠組みが制度疲労を起こしていると感じる。

 企画展や作品購入に必要な予算は景気など社会状況に左右される。海外では、コロナ禍で閉館に追い込まれるミュージアムも増えた。「従来の在り方から変われるかどうか。ミュージアムの力が試されている」

 その鍵が地域とのつながりだと池上さんはみる。きれいなトイレ、参加型プログラム、子ども連れでも入館しやすい仕組みなどで「あの美術館は楽しい、なくさないでほしい」と思われる存在でありたい。

 滋賀にまつわる作品や作家もこれまで以上に紹介する予定だ。早世した画家野口謙蔵は東近江の人だ。「五月の風景」には爽やかな初夏の蒲生野が描かれる。無数の突起を持つ造形が目を引く澤田真一は県内で制作し、国内外から高く評価される。館は2016年から、福祉施設などで生まれるアール・ブリュット作品の収集を始め、澤田作品もその核となる。

塔本シスコ「自由の女神達」 1994年

 池上さんの前任地、西宮市立大谷記念美術館(兵庫県)は、70年代に絵本の展示を始めた。当時は批判されたが、いまや来館者に愛される人気企画だ。再開館する滋賀県立美術館でも、冒険的な展示に挑んできた歴史を高めつつ、今までにない価値を発信したいと池上さんは考えている。

 

 滋賀県立美術館 県立近代美術館として1984年開館。4年の休館を経て2021年6月、県立美術館の名で再開館の予定だ。日本画家小倉遊亀や染織家志村ふくみ、アメリカのマーク・ロスコやロバート・ラウシェンバーグなどの作品で知られる。2019年収蔵の塔本シスコ「自由の女神達」は、作家が80歳を超えて描いた生命力あふれる1点。「作品の人生は館に収蔵されてから始まるところもある。うまく育てるのも学芸員の役目」と池上さんは話す。大津市瀬田南大萱町。077(543)2111。