多美子さんの写真に語り掛ける河野さん。「べっぴんさんにとってもらいや」(向日市・三益庵)

多美子さんの写真に語り掛ける河野さん。「べっぴんさんにとってもらいや」(向日市・三益庵)

 地域で愛されてきた向日市のそば店の男性が、急逝した妻への思いを胸に1人で切り盛りしている。気力をなくした日々もあったが、妻の写真とともに店に立つ。「わしは、そばを打つことしかできん。頑張らんな」。1月に三回忌を迎え、少しだけ前を向いた。

 同市上植野町の「手打ちそば処 三益庵(みますあん)」の河野益三さん(77)。大阪市内などで修行を経て、妻多美子さんと約40年前に向日市で独立した。河野さんの手打ちそばと、接客担当の多美子さんの明るい人柄に、昼は会社員、夜は家族連れでにぎわった。

 2017年1月29日早朝、自宅のトイレ前で多美子さんが倒れた。河野さんは体を温めようと布団まで運んだ。「しんどいか」「うん、寝かしといて」。それが最後の会話。午後に息を引き取った。66歳だった。

 「来年からは2人で温泉巡りでもしよう」と話していた矢先だった。おしどり夫婦は一緒に落語を聴きに行ったり、ギョーザを作ったり。「これからわし、どうなんねん」。河野さんは店を閉め、誰とも話さなくなった。

 長女と長男の応援や再開を望む客の声に背中を押され、6月から1人で店に立った。昼のみの営業でセルフサービス。メニューはそば4種だけ。働いている方が気は紛れたが、1人でする片付けに多美子さんの姿がよぎる。休店日はこれまでの日曜のほかに、祝日と毎月29日になった。

 今年1月29日、京都市内の寺で三回忌法要をした。「今はこんな風に1人で頑張ってるわ」と報告した。少しだけ前を向ける気がして肩の力が抜けた。

 店内に飾る多美子さんの写真に「おはよう」「ただいま」と毎日声を掛ける。「応援してくれている気はする」。多美子さんと約束した「80歳まで店に立つこと」が今の目標だ。