昨年11月の電撃的な逮捕以降、108日に及ぶ身柄拘束が続いていた日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告が保釈された。

 起訴内容を全て否認する被告の保釈決定は異例であり、画期的だ。冤罪(えんざい)の温床とも指摘される「人質司法」の不当性を考えれば当然といえる。

 会社法違反(特別背任)などの罪で起訴されていたゴーン被告はきのう、保証金10億円を納付して保釈された。保釈請求に対し、東京地裁は証拠隠滅や逃亡の恐れが大きくないと判断した。保釈決定を不服とした検察側の準抗告も棄却した。

 ゴーン被告は無罪を主張し、法廷で全面的に争う姿勢をみせる。米国の代理人を通じ、「私は無実であり、公正な裁判を通じ強く抗弁する」と強調した。

 請求は3回目で認められた。公判に向けた争点整理が進んでいない段階で、否認している被告が保釈されるケースはまれだ。事件関係者との口裏合わせなど、証拠隠滅の不安が拭えないためだ。とりわけ検察の特捜部が手掛ける複雑な事件では、保釈は珍しい。

 2度も請求を退けた地裁が、なぜ許可へかじを切ったのか。「人質司法」との批判が強まる中、むやみに勾留を続けたくないというのが本音ではなかろうか。

 「検察と一体」とみられては裁判自体の公正を損ない、国民の信頼を失いかねない。証拠隠滅の恐れなどを綿密に審査し、身柄の拘束がもたらす不利益をも考慮して問題がなければ否認でも弾力的に保釈を認めるべきであろう。

 新たに就任した弁護団は住居の出入り口への監視カメラ設置や携帯電話の使用制限といった厳しい行動制限を提起し、地裁も応じた。刑事弁護にたけた弁護団の手段が奏功したとみられる。

 ただ証拠隠滅や逃亡の防止を担保するとはいえ、過剰な保釈条件は人権侵害につながりかねない。前例として定着する懸念が残る。

 否認すれば罪証隠滅の恐れがあるなどとして長期にわたり勾留される「人質司法」への批判は強い。長期の拘束は日産事件で海外からも厳しい目が向けられている。

 日本も批准した国連の自由権規約には、無罪推定の原則とともに妥当な期間内に裁判を受ける権利や釈放される権利、起訴後の勾留原則禁止が定められ、勾留を短期間にとどめる国は多い。

 最近、勾留請求却下率や保釈率は上がっているが、裁判所の責任は重い。「人質司法」から脱却する契機としたい。