65歳以上の高齢者を対象にした新型コロナウイルスワクチンの優先接種に向け、自治体へのワクチン配布が今週始まる。

 接種は12日の週から順次実施される。多数の国民を対象に短期間で行う前例のない事業だ。入念な準備が求められる。

 だが、公民館などでの集団接種を想定した事前訓練を実施済みや予定している自治体は、全体の約3割にとどまる。接種会場に配置する医師や看護師を確保できる見通しが立っていない自治体も少なくない。

 このままでは、接種時に混乱が生じたり、接種時期が遅れたりしかねない。確実な実施へ、政府や自治体は連携して万全の備えをしてほしい。

 多くの人に早く接種するのに集団接種は効率的とみられており、これまでに公民館をはじめ学校、病院など全国で会場約5500カ所が確保されている。

 ただ、厚生労働省が住民接種事業を担う全1741市区町村に聞いたところ、先月中旬時点で7割が事前訓練の予定がないと回答した。

 集団接種では、想定外の問題が生じることがあり得る。しかし、1994年の予防接種法改正で個別接種が中心になったため、ほとんどの自治体には集団接種のノウハウがないという。

 守山市と大津市が2~3月に行った訓練では、医師の予診に至る前段階の確認作業で手間取ったり、副反応への説明に一定の時間がかかったりする状況が浮かび上がった。

 医師の確保が見通せない自治体も全体の1割、看護師では2割に上っている。とりわけ、過疎地や離島では深刻な問題だ。

 医療機関や医師が不足する地域では、近接する自治体同士で連携して接種を行う仕組みを検討する例もある。だが、接種に手を取られれば通常の診療に支障が出ることも懸念される。

 接種の準備を通じて、地域医療が日常的に抱えている課題があぶり出されたといえる。

 こうした課題を一つ一つクリアできなければ、その後に予定される基礎疾患を持つ人や一般の人への接種もスムーズに運ぶまい。都道府県や政府は市区町村の心配を真摯(しんし)に受けとめ、積極的に支えてほしい。

 接種の効果やリスクについての情報提供も欠かせない。自治体の調査などでは、副反応への心配から接種をためらう人が一定存在することもうかがえる。

 準備と並行して、専門家の意見を踏まえて説明を尽くすことも、自治体や政府に求められる使命であることを忘れてはならない。

 一方、ワクチンが十分に確保できる見通しは、いまだに立っていない。これまでに医療従事者約35万人が少なくとも1回は接種を受けたとみられるが、全人口の1%にも満たない。

 欧州連合(EU)の輸出管理強化で安定的な調達の確証を得にくいなどの事情はあろう。

 だが、国内で感染者数が急増し、「第4波」到来も危ぶまれる中、ワクチン接種に対する国民の関心は高まっている。

 政府は調達の見通しを可能な限り明確にするよう努めてもらいたい。