ゲノム編集を施したiPS細胞(京都大iPS細胞研究所・堀田秋津講師提供)

ゲノム編集を施したiPS細胞(京都大iPS細胞研究所・堀田秋津講師提供)

 遺伝子を自由に書き換えられる技術「ゲノム編集」を使って拒絶反応を起こしにくいiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作製する技術を開発したと、京都大iPS細胞研究所のグループが発表した。同研究所で進めている再生医療用iPS細胞のストック計画に応用すれば、7種類のiPS細胞で日本人の95%以上をカバーでき、大幅な効率化につながるという。米科学誌セル・ステム・セルに8日、掲載される。

 同研究所は、拒絶反応を起こしにくいタイプのドナーから作ったiPS細胞を備蓄しているが、日本人の9割をカバーするためには140種が必要となる。2013年度からストック計画を開始したが、現状は3種で3割のカバーにとどまっている。

 同研究所の堀田秋津講師らは、ゲノム編集を活用し、免疫細胞が異物と認識する目印となるiPS細胞の膜上のタンパク質をなくす技術を確立した。一方で、免疫細胞の一種であるナチュラル・キラー細胞は、目印のタンパク質がないことに反応するので、一部のタンパク質だけは残した。

 ゲノム編集したiPS細胞からできた血球細胞をマウスに移植するなどしたところ、免疫細胞からの攻撃を一定回避していることを確認できた。

 堀田講師は「ストックに応用にするには安全性の確認や、作製技術の改良など課題はある」と話した。

 ◇選択肢の拡大も、ニーズ見極めを

 ゲノム編集を活用して、移植時に拒絶反応が起こりにくいiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作る技術が開発された。ドナーから作ったiPS細胞を患者に移植する再生医療の実現に向け、選択肢の拡大が期待できる。ただ、技術革新が日進月歩のなか、将来的にどれだけニーズが見込まれるか。現状で判断できないことは多い。

 京都大iPS細胞研究所の山中伸弥教授は、数年後には100万円程度の価格で患者自身から作製したiPS細胞(マイiPS)の提供を目指すと表明している。実現の可能性には議論もあるが仮にマイiPSが普及した場合、ドナーの細胞を用いるiPSストックとどう使い分けるのか。解決するべき問題は残る。

 ゲノム編集のストックに応用するとしても技術的な課題がある。神奈川県立保健福祉大の八代嘉美教授(科学技術社会論)は「がん化のリスクなどをどう評価するか。価格を抑えるには、そうした手法の研究が重要」と指摘する。

 免疫反応に関する懸念も聞こえる。京都大の河本宏教授(免疫学)は「ナチュラルキラー細胞による拒絶反応は、今回の手法では最大6割の患者に起こり得る」と指摘。また、研究グループが考案した方法でiPS細胞からできた組織は、免疫細胞との連携がうまくいかず感染症への抵抗力が低くなる可能性があるという。その上で「産業界からは、約10種類のiPS細胞ストックなら使いやすい、という声が出るかもしれない」と述べる。

 iPS細胞を使った再生医療は、未知の領域だ。今回の研究を含めさまざまな技術を開発することは、iPS細胞を使った医療の底上げを図るためにも意義はある。研究の進展と合わせて、医療への応用にそれぞれの技術をどう生かせるか。じっくり見極めることが重要となる。