美術品には時に数奇な運命をたどるものがある。日本画家堂本印象の兄で大正―昭和期に活躍した京都漆芸界の重鎮・堂本漆軒(しっけん)にもそんな作品があることを京都市北区の堂本印象美術館で開催中の「漆軒と印象」展(17日まで)で知った▼日中戦争下、世界一周豪華客船「あるぜんちな丸」を建造する際に一等食堂のサイドボード扉として創られた「蒔絵飾扉(まきえかざりとびら)」である。国の威信をかけて室内装飾に日本の美意識を傾注した客船。制作の委嘱は漆軒にとって極めて栄誉なことだったようだ▼ところが太平洋戦争が始まると客船は空母に改造され船内の調度品は陸揚げされてしまう。だが皮肉にもそのおかげで飾扉は生き延びた。空母となったあるぜんちな丸は機雷に触れて航行不能となり、後に解体されている▼その飾扉を見ながら同様の運命をたどった作品が印象にもあることを思い出した。海軍の依頼で制作し、戦艦大和の艦長室に飾られた「戦艦大和守護神」だ▼艦は沖縄への特攻で沈没するが、絵は出撃前に降ろされたため奇跡的に残った。特攻作戦では火災を抑えるために燃えるものは全て降ろして出撃したと聞く▼仲の良い兄弟だったというが、戦時下に2人そろって似た経験をしていることが面白い。あまり知られていない京都美術史の一つだろう。