名物のたぬきのイラストがあしらわれた鉄印と鉄印帳(滋賀県甲賀市信楽町・信楽駅)

名物のたぬきのイラストがあしらわれた鉄印と鉄印帳(滋賀県甲賀市信楽町・信楽駅)

地元の「丹後二俣紙」を用いた京都丹後鉄道の鉄印

地元の「丹後二俣紙」を用いた京都丹後鉄道の鉄印

 ローカル線に乗り、鉄道会社発行の「鉄印(てついん)」を集めて巡る旅が注目されている。新型コロナウイルス感染拡大の中でも密を避けながら自分のペースで楽しむことができ、収入減少で苦境に立たされている事業者からも知名度アップや利用促進に期待の声が上がる。

 取り組みは「御朱印」の鉄道版で、第三セクター鉄道等協議会に加盟する40社などの共同事業として昨年7月に始まった。各社で販売する「鉄印帳」を手に、指定された駅の窓口で乗車券を提示。記帳料を支払うと社名やご当地のイラストがデザインされたオリジナルの鉄印がもらえる。全て集めた人には「マイスターカード」が発行されるなど、コレクター魂をくすぐる仕掛けもあり、鉄印帳の初版5千部はすぐに完売したという。

 滋賀県甲賀市の信楽-貴生川間(14・7キロ)を片道23分で結ぶ信楽高原鉄道。信楽町中心部にある信楽駅を利用する観光客は少ない。同社の中西敏弘総務課長は「コロナが広がってからは余計に車で来る人が増えた」と説明する。「地域の足」として利用者の大半を占める通勤通学人口も少子化や過疎化の影響で減っていく一方で、経営は厳しさを増している。

 そんな中で始まった鉄印の取り組み。信楽駅では、かわいらしいたぬきの駅長のイラストをあしらった書き置きのものを配布する。多い時には一日で約50人が鉄印収集の目的で訪れたというが、中西課長は「お客さんが一カ所に一気に集まる状況にはなりにくいので安心して楽しんでもらえるのでは」と推測する。

 地域の生活や文化に根差した工夫も目を引く。京都丹後鉄道の天橋立駅(京都府宮津市)でもらえる鉄印用紙には、沿線の和紙業者が手掛ける「丹後二俣紙」(府指定無形文化財)が使用されている。目が細かく、高級感のある手触りが特徴といい「地元の名産品についても知ってもらえれば」(担当者)と話している。

 鉄道フォトジャーナリストの櫻井寛さんは「鉄印帳という切り口で鉄道ファンだけでなく一般の人も取り込み、赤字路線に利用客を呼び寄せる効果のある鉄印は救世主といえる」と評価する。一方、鉄道に乗らず車で収集する人がいたりオークションサイトで個人が高額で販売したりしている事態も懸念し「制約もまた魅力。乗ってこその味わいを感じてほしい」と呼び掛ける。