<四度の眠りいつしか過ぎて 箸の太さは小指となりぬ->。文部省唱歌「蚕」の一節だ。桑の葉を食べて4回脱皮し糸を吐いて繭になるまで<心尽くして>育てた様子を歌っている▼農家で日常だった養蚕風景はほとんど見られなくなったが、京丹後市弥栄町の旧溝谷小では児童の代わりに蚕が育つ。同市が教室を改修し「新シルク産業創造館」として運営する。年間を通じて人工飼料で無菌飼育し、昨年には同時に20万の蚕を育てることができた▼大日本蚕糸会によると、全国の養蚕農家は昭和初期に220万戸あったが、2017年には336戸まで減った。丹後ちりめんの産地でも生糸の多くは輸入品に頼る▼俳人の高浜虚子が<よき蚕ゆゑ正しき繭を作りたる>と詠んだように、蚕が繭の良しあしを決める。輸入品とは品質や付加価値で勝負するしかない▼創造館では遺伝子組み換え蚕も飼育している。セリシンという保水力が高いタンパク質だけの糸を吐く。プロジェクトを指揮する京都工芸繊維大の森肇教授(59)は「特殊な蚕を新たなマテリアル(素材)として供給すれば施設全体として採算が合う」と話し、健康や医療品向けを見込む▼蚕は人間の都合でサナギまでで生涯を終える。廃校育ちの繭が機能性素材として「巣立つ」日が期待される。