日本学術会議の会員候補任命拒否撤回を求める署名活動について会見する元会員の増田さん(東京都千代田区・文部科学省)

日本学術会議の会員候補任命拒否撤回を求める署名活動について会見する元会員の増田さん(東京都千代田区・文部科学省)

 京都府京丹後市出身で97歳の元日本学術会議会員増田善信さん=東京都狛江市=が19日、日本学術会議会員候補6人の任命拒否撤回などを求めてオンラインで約6万2千人分の署名を集め、政府に提出した。太平洋戦争時に気象予報を特攻隊員に伝えた経験があり、学者が戦争に加担した反省を踏まえて発足した学術会議を変質させかねない政権の介入や世間の関心が薄れている現状に危機感を抱いた。「誰かが一石を投じないと、政権側の思惑通りになり問題は消える」と立ち上がった。

 気象学者の増田さんは旧弥栄町の貧しい農家に生まれ、開戦時は宮津測候所(京都府宮津市)の職員だった。戦争末期には海軍少尉として島根県の大社基地で気象観測を担い、「沖縄特攻」に出撃する兵士に沖縄までの航路と那覇の天気予報を伝えて送り出したという。

 戦後、気象庁の気象研究所室長まで勤め上げ、1978年から2期5年間にわたり学術会議の会員を務めた。かつて軍事研究で科学者が戦争に動員され、83年に政府が反対を受けながら会員を「公選制」から「推薦制」に切り替えた歴史を知る者として、政治からの独立を強く意識してきた。

 任命拒否について増田さんは「法的根拠がない。政治家の倫理性が問われている。不合理の極みであり、絶対に認めるわけにはいかない」と批判する。

 オンライン署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」を知り、スタッフの協力を得て3月から活動を始めた。6人の任命と学術会議の在り方を検討する政府要請撤回の2点を掲げ、4月16日時点で6万1672人が賛同した。

 19日に東京都内で記者会見した増田さんは、学問の自由を守り、再び戦争への道をたどらないよう設立された同会議の意義を訴えた。会議の今後の在り方を決める21日の総会を前に「創立当初の精神を堅持し自信を持ってつないでいってくれたら」と後輩にエールを送った。

 原爆投下直後の広島で降った「黒い雨」の研究を続け、訴訟にも関わってきた増田さん。戦争など多くの「不合理」に直面した過去が、97歳になった今も自らを突き動かしている。「誰もが心の奥底に持っているものを世の中に言えることが大事」と語気を強めた。