店先には感謝やねぎらいのメッセージが書かれた

店先には感謝やねぎらいのメッセージが書かれた

昨年3月末で閉店した「ちくま寿司」主人の岡部忠蔵さん(左)と妻のアイ子さん(京都市左京区下鴨芝本町)

昨年3月末で閉店した「ちくま寿司」主人の岡部忠蔵さん(左)と妻のアイ子さん(京都市左京区下鴨芝本町)

 夫婦で57年間営んできた京都市左京区下鴨の「ちくま寿司」が、3月末でのれんを下ろした。カウンターのみの小さな店は常連客らでにぎわってきたが、ともに80代の高齢となり、コロナ禍も重なったことで閉店を決意。「長い間ご苦労さまでした」。市内外から、ねぎらいや惜しむ声が寄せられている。

 店主の岡部忠蔵さん(88)と妻のアイ子さん(83)。長野県出身の岡部さんは、22歳から京都市内のすし店で修業し、1964年に31歳で店を構えた。


 会社員や地域住民、大学や病院の関係者ら客層は幅広く、以前は閉店時間の午前1時を過ぎても、祇園帰りの客らでにぎわった。俳優の藤田まことさんや南田洋子さんら著名人も訪れていた。


 錦市場で仕入れ、アナゴやキス、タコなどが特に人気だったという。葵祭の時期には、夜通しでサバずしを120本以上作ったことも。アイ子さんは「今は穏やかだけど、昔は職人気質で怖かった」と笑い、岡部さんは「忙しくて必死だった」と振り返る。


 岡部さんは82歳の時に心臓の手術で入院して1年休業したが、後に再開。自己流の体操や、暴飲暴食を避けることで健康維持に努め、「店で履き続けてきた高げたも良かったのかな」と話す。


 店は約20平方メートルで、カウンターの8席のみ。2人は「狭いからこそ会話が自然と弾む。お客さん同士が仲良くなるのを見るのがうれしかった」。毎月、常連客とカラオケに行くなど店外でも交流を楽しんだ。


 しかし、コロナで状況は一変。営業時間が限られ、客足も遠のいた。今年2月、建物の所有者が代わったのを機に、店じまいを考えるように。「コロナで先行きが不透明だし、年齢のこともある。今がやめどき」。夫婦で決断した。


 3月22日に時短要請が解除され、月末の閉店まで、なじみ客らの予約で埋まった。「大将の御寿司大好きでした 奥様の赤出しお吸物最高でした」「これからはお二人での人生を楽しんで下さいませ」。閉店後には手紙がたくさん届き、店先にも感謝のメッセージが貼られた。岡部さんは「こんなに思ってもらっていたなんて」と目頭を熱くする。


 今月いっぱいで店を明け渡す予定で、片付けは一段落したが、岡部さんは今も毎日店に足を運ぶ。「まだ仕事をしている感じで、心が落ち着かない」と苦笑し、年季の入ったカウンターをいとおしそうになでた。「いろんな思い出が浮かぶが、いつも和やかな雰囲気で、本当にお客さんに恵まれた。幸せな57年間でした」