江口さんの夫継男さんが生前にしたためた日記の一部。血友病治療のつらさや生への渇望がつづられていた

江口さんの夫継男さんが生前にしたためた日記の一部。血友病治療のつらさや生への渇望がつづられていた

 兵庫県西宮市内のマンションで1人暮らしを続ける江口洋子さん(86)が、初めて京都新聞社の取材に応じたのは、新型コロナ流行の「第3波」が猛威をふるっていた1月下旬のことだ。初対面の記者とあいさつを交わすと、こう切り出した。

 「コロナで家族を亡くした遺族が心配。こんな世の中だから、どこにも相談できないんじゃないか」

 当時は、入院を拒否するコロナ感染者に刑事罰を科す感染症法政府改正案が物議を醸していた。感染者を疎外することで社会防衛を図ろうとする発想はかつてのエイズ予防法(1999年廃止)に通じ、「差別や分断を招きかねない」と批判が高まっていた。

 江口さんは小学校教諭として働き盛りだった34歳の時、快活でまっすぐな人柄の継男さん(91年6月、46歳で死去)にひかれ、結婚した。

 血友病の夫はしばしば、激しい痛みを伴う内出血に苦しんだ。そんな時は江口さんがタクシーや自家用車でかかりつけの病院に連れて行った。仕事を急に休んだり、自分の不在時に対応を頼んだりすることがあるかもしれないと考え、夫の病気のことを職場や近所にも伝えた。理解を得られるか不安もあったが、誰もが嫌な顔一つせずに受け入れてくれた。

 だが、血液製剤によるエイズウイルス感染は2人を取り巻く状況を過酷なものにした。

 エイズは、体内に侵入したウイルスが免疫細胞を破壊し、免疫不全を起こす病気だ。現在はさまざまな治療薬が開発され、症状をコントロールしながら普通の暮らしを送ることができる。感染経路は主に性行為、血液、母子感染に限られ、日常生活で感染が広がることはない。しかし、当初は不治の病と恐れられ、病気への無理解から患者や家族に対する壮絶な差別が存在した。