「古希」といえば年老いて聞こえるが、周りの70歳を拝見すると元気な方が多い。

 そこを見込んでのことだろう。70歳まで働けるよう、企業に努力義務を課す「70歳就業法」が今月施行された。正式には改正高年齢者雇用安定法という。

 「いつまで働かせるの?」「定年後はのんびりしたいよ」

 そんな声が聞こえてきそうだが、あくまで希望する人に働いてもらおうという法律だ。

 実際には、すでに60歳を過ぎて働いている人は多い。労働政策研究・研究機構の2019年調査によると、60~64歳で70・2%、65~69歳で50・1%が就業している。

 理由を複数回答で問うと「経済上の理由」が76・4%とダントツで多い。「いきがい、社会参加のため」(33・4%)を大きく引き離し、生活のために働かざるを得ない現実が垣間見える。

 同じ調査で、65歳以降の予定を聞くと「ぜひ働きたい」「働くことが決まっている」が半数を超え、「仕事はしたくない」は7%と意外に少ない。

 というわけで、今回の改正法を高齢者はもっと注意深く見た方がいい。

 すでに改正前の同法で、希望者を65歳まで雇うことを企業に義務づけ、その方法として、定年廃止▽定年延長▽継続雇用制度―を選択肢に挙げている。

 今回は、70歳までの就業機会確保を企業の努力目標とした上で、先の選択肢に、個人で事業や起業を希望する人への業務委託▽自社が関わる社会貢献事業に従事―を追加している。

 企業から業務委託を受ける個人事業主になれば、働く場所や時間に縛られず自由になる。社会貢献事業では有償ボランティアとして新たな生きがいが見つかるかもしれない。

 しかし、気がかりな点がいくつかある。企業との雇用関係がなくなれば、労働者保護の法律が適用されない。最低賃金や休業時の補償が受けられず、労災の対象外になる。

 これら追加の選択肢が、本人の意思かどうか。今回の改正法では事前に労働組合の同意が必要としている。これは守ってもらいたい。企業に残る人を選ぶ時も、労使協議でつくった基準に沿って公正にすべきだ。

 元気に見えても、年齢相応に視力や筋力、平衡感覚は衰えており、事故につながる心配がある。厚生労働省によると、労働災害の死傷者の26%が60歳以上で、他の年代より割合が多い。

 体力に応じた作業や心身のチェックなど、厚労省は安全な職場環境への指針を示しており、企業に徹底してもらいたい。

 一口に高齢者といっても、実情はさまざまだ。生活のために働き方を選べない人や、収入が不安定で、健康に不安を抱えている人もいる。安心して働ける制度の支えがほしいところだ。

 改正法は、高齢者に働いてもらうことで人手不足を補い、社会保障制度の担い手になることを期待している。

 高齢者も経験や技能を生かしたい。ただ、これまでの働き方や企業にとらわれず、いろんな道を選べる社会がいいのだが。