ヒトの受精卵から取り出した核を、あらかじめ核を取り除いた別の受精卵や卵子に置き換える「核移植」が、基礎研究に限って認められることになった。

 政府の生命倫理専門調査会が、文部科学省の指針改正案を容認した。

 生命の設計図となる遺伝情報を含んだ核の移植は、既に存在する個体と同じ遺伝情報を持つ「クローン人間」を生み出す技術にもつながる。研究内容や受精卵などの提供体制の厳格な審査が求められる。

 核移植が認められるのは、細胞内にある小器官ミトコンドリアの働きが低下し、運動障害などを引き起こす遺伝性の難病「ミトコンドリア病」の研究だ。根本的な治療法が見つかっていないため、病態解明や治療法の開発が期待できる点で意義がある。

 核移植された受精卵を子宮に戻せば、ミトコンドリア病ではない子どもができる可能性も示されている。

 だが、そうした臨床応用を含む研究や医療は禁止された。

 英国での実施例はあるが、日本国内で安全性や有効性が確立されていない現状では当然の措置と言えるだろう。

 倫理面での課題も大きい。

 核移植によって産まれる子どもは、元のカップルと受精卵または卵子を提供した女性の計3人の遺伝情報を受け継ぐことになる。

 もし技術を実用化するなら、遺伝的に母親が2人いる子どもの誕生をどう捉えるべきか、社会全体での議論が欠かせない。

 英国では、親が望む性質の子を人為的につくる第一歩になるとして、英国国教会などを中心に反対論も根強いという。

 核移植の適用範囲が際限なく広がれば、障害のある子どもは産まない方がよいという優生思想につながる恐れもある。

 核移植や受精卵(胚)の改変を巡っては、2000年に制定されたクローン技術規制法と翌年にできた文科省の指針が厳しく制限してきた。その後、09年に難病の研究に限って「クローン胚」の作製を、13年に動物の受精卵にヒトの細胞を混ぜた「動物性集合胚」の作製と動物の子宮への移植を、それぞれ容認してきた。

 今回、政府の専門調査会は、生殖補助医療(不妊治療)目的に限っていた受精卵に対するゲノム編集についても、遺伝性の病気の原因を調べる基礎研究に拡大した。制限緩和の背景には、世界との激しい競争を制して知財を確保したいとの狙いもうかがえる。

 iPS細胞をはじめ医療や生命科学の研究は、発展が目覚ましい。生命の操作に関わる技術も近年、大きく進歩している。

 そこで重要になるのは、認められない研究や臨床応用との線引きだ。

 有用性や経済性だけを理由に先を急ぎ、生命倫理を置き去りにすることは許されない。

 政府や研究機関は、インターネットなどを通じて研究の現状や課題を分かりやすく紹介し、国民の理解と合意形成を得る努力を続けてほしい。