新型コロナウイルス感染防止の切り札とされるワクチンの接種に、国が乗り出すという。

 菅義偉首相は、コロナワクチンの大規模接種センターを東京都心部に設置するよう岸信夫防衛相に指示した。自衛隊の医官、看護官が1日1万人規模、3カ月間で延べ90万人に接種する計画だ。大阪でも設置を検討している。

 全国の65歳以上約3600万人のうち、1回目の接種が終わった人は0・3%にとどまっている。高齢者の4分の1にあたる約900万人が住む首都圏で、接種を加速させたい考えとみられる。

 感染「第4波」で医療危機が広がる中、接種機会を拡大することは重要だ。

 ただ、これまで自治体が担っていた接種実務を、今なぜ国が手掛けるのか明確な説明はなく、唐突感は否めない。運営方法によっては混乱を招きかねず、十分な検討が求められよう。

 開設は5月24日の予定で、準備期間は1カ月もない。実施には多くの課題が浮かぶ。

 特に、接種の人員確保だ。自衛隊の医官は全体で約1100人、看護官は約千人(昨年3月末時点)という。中核となる自衛隊中央病院(東京)は、コロナ患者を受け入れており、本来業務に影響が出ることも考えられる。

 接種対象者は、東京に加え埼玉、千葉、神奈川の近隣3県の65歳以上だ。自宅から離れた会場まで出向くのは感染リスクを高めるのではないか。予約の殺到や、会場と周辺の交通機関の混雑なども懸念される。

 住民の接種状況を管理する市町村との情報共有も課題だ。接種の有無や回数などで間違いがあってはならない。

 そもそも全国的に接種が遅れている要因は、ワクチン供給が少なく、見通しが立ちにくいことにある。

 大規模接種会場では、承認申請中の米モデルナ製ワクチンが使われる見込みだ。厚生労働省の専門部会が5月20日ごろにも承認を判断するという。安全性などの十分な審査はもちろん、地方への供給計画が大幅に後回しにならないか、説明が必要だ。

 本来、接種は身近な場所で受けられるほうが住民には便利だ。各自治体は、感染者の増加や病床逼迫(ひっぱく)状況など、地域の実情に合わせて接種方法や人材確保を工夫している。政府は、円滑な接種が進められるよう、市町村に対する支援も一層強化する必要がある。