霜降りの和牛は、とろけるような舌触りと豊かな味わいで、世界のグルメたちを魅了している。

 それが、日本以外の国でも育てられるようになっては、畜産農家はたまったものではない。

 大阪府警が先週、和牛の受精卵と精液を、検査を受けず不正に中国へ持ち出したとして、府内の飲食店経営者ら2人を逮捕した。いずれも容疑を認めている。

 府警は、持ち出しを指示した人物が別にいるとみて、調べを進めている。早急に事件の全容を解明し、不正な輸出があるのなら、断固として阻止する対策が、必要となる。

 昨年、2人は共謀し、家畜防疫官の輸出検査を受けることなく、凍結保存容器に入れた受精卵と精液を輸出しようとしたという。中国で持ち込みを拒否されたので日本に戻り、動物検疫所に申告して、事件が明るみに出た。

 不正を働こうとしたのは、今回が初めてだろうか。

 輸出しようとしたのは、受精卵と精液の入ったストロー計365本。受精卵などは、徳島県の畜産農家が2人とは別の男に販売したことが分かっている。

 大量の輸出であり、関与する人物も多い。組織的な行為である可能性が、極めて高い。

 和牛は、日本の黒毛和種など4種と、これらを親とし、国内で生まれ育った肉牛のことである。海外でも品質が高く評価され、高級ブランドとなっている。

 和牛を含む日本の牛肉輸出は年々、増えている。環太平洋連携協定(TPP)や欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の発効によって、参加国の関税は撤廃に向かい、追い風も吹く。

 京都市が食肉市場の設備を拡充し、滋賀県は近江牛の販路開拓に取り組むなど、各地で輸出拡大の動きが活発になっている。

 これを支えるためにも、遺伝子の流出を阻み、和牛のブランド価値を維持しなくてはならない。

 懸念されるのは、今回の逮捕が伝染病に対処する家畜伝染病予防法によって、行われたことである。長年改良を重ねた和牛の受精卵などが、守るべき知的財産であるとの考えには基づいていない。

 国内の農産物では、イチゴやサクランボなどの一部品種も海外に流出したとされている。

 事件を受けて農林水産省は、和牛などの適切な流通管理の手法を探る検討会を設置したが、より根本的な流出対策と法整備を、急ぐべきだ。