「田村さん、京都のパン屋さんのあんぱんっておいしいですよね」

 そんな一言から、お薦めのあんぱんを紹介したことがある。

 私も内心、京都のあんぱんのあんこはおいしいと感じていたので、その言葉を聞いたときに「あぁ、やっぱりそうなのか」という、確信に変わった。


 おいしいあんこの基盤として、京都には長い歴史と伝統のある和菓子の文化がある。

 身近に和菓子屋があり、日常的においしいあんこが食べられる古都・京都。

 もちろん、和菓子に使われるあんこと、パンに使われるそれとでは、つくり方や風味が違うかもしれない。

 口溶けの滑らかな「こしあん」。

 粒々感を味わえる「つぶあん」。

 きっと、あんぱんのあんこ一つをとっても、その店のこだわりがあるに違いない。

 「京都らしいパン」を象徴するキーワードの3つ目は、「あんこ」だ。


 「一日一パン」の企画では、あんぱんをこれまでに6回、紹介させていただいた。

 【12月6日】抹茶あんぱん<パティスリータツヒトサトイ>

 【11月15日】くるみあん<ユノディエール>

 【2月21日】こしあん<天狗堂海野製パン所>

 【3月4日】金時豆のあんぱん<warung.roti(ワルン ロティ)>

 【3月24日】あんぱん<UN JOUR(アンジュール)>

 【4月4日】あんぱん<タローベーカリー>


 そのうちの4軒が自家製のあんこを使用している。

 普段のパン製造作業の傍ら、あんこを炊くのも手間がかかる作業。

 つくり手それぞれに思いがあって、あんこを炊いているのだろう。

 

 こしあん<天狗堂海野製パン所>

 99年間、ずっとつくり続けているパン。現在は、3代目夫人の海野謹子さんがあんこを炊いている。あんこを炊く専用の機械で、製餡所(せいあんじょ)から仕入れた生あんを調理していく。「生地に合うように、甘さとあんこの柔らかさの調節をしています。初代から教えられてきた炊き方で、しっとり柔らかめに炊いています」と海野さんは話す。

 

 金時豆のあんぱん<warung.roti(ワルン ロティ)>

 一般的なあんぱんのあんこは、小豆を使っているけれど、無農薬の金時豆を使っている。砂糖は、優しい甘みが特徴のきび砂糖を使用。「最初は小豆だったけど、違う豆で試してみたところ、意外と食べ応えがあって、おいしかったんですよ」と店主の山田きく子さん。パン生地は、あんことの相性のよい、減農薬酒粕の天然酵母で発酵させている。

 

 あんぱん<UN JOUR(アンジュール)>

 「甘さや少量の塩味を調節できるのが、手づくりのよさだと思います。やっぱり(あんこを)つくったら、やめられないですね。手間をかけてやると、思い入れが違います。気持ちは味とは違うんですけど、味覚になるんです」と店主の藤井仁徳さんは語る。柔らかい生地が主流な菓子パンだが、歯ごたえのある生地を意識してつくっている。

 

 あんぱん<タローベーカリー>

 「はるゆたかブレンド」と、北海道産小麦をブレンドした生地で自家製あんこを包んでいる。「あんこを炊く時に、あまり水分が飛びすぎないように気をつけています。甘さは生地と同じく控えめで、自分たちがおいしく感じる甘さに仕上げています」とスタッフの鬼頭寿美子さん。京都・桂の和菓子屋で教えてもらった炊き方で炊いている。 


 あんこを炊く理由として、あんこの甘さ、塩味、柔らかさを調節できることが取材を通して明らかになった。あんこは甘ければおいしいというフィリング(具材)ではない。

 小豆や金時豆の風味も含めて、あんこなのである。

 ちなみに、他2軒のあんぱんについても、製餡所から仕入れたあんこや、北海道産の小豆を使用したあんこを使っていることから、素材を大切にしていることがうかがえた。


 その他にも、あんこを使ったパンの中には、「あんバタ−」というパンがある。

 「あんバタ−」もあんぱんに続いて、今までに5回紹介させていただいた。

 【1月15日】あんバタークロワッサン<orsetto bianco(オルセットビアンコ)>

 【1月31日】塩あんバターフランス<Pain De Qui (パン ド キ)>

 【2月10日】アンバタ<パンドレ嵯峨店>

 【3月22日】別格クロワッサン あんとバター<別格京都駅店>

 【4月27日】抹茶生地のあんバタ<御所西 ばく食堂&手作りパンの購買部> 

 あんバタークロワッサン<orsetto bianco(オルセットビアンコ)>

 クロワッサン生地は、「キタノカオリ」をベースに、全て北海道産の小麦粉を使用。発酵バターも道産のものを使っている。店主の古川麻帆さんが修業時代を過ごした北海道の、素材のおいしさが詰まった一品。道産の小豆を使い、京都の地下水で仕込まれた製餡所のこしあんと、口溶けのよいバタークリームをクロワッサンで挟み込んでいる。


 アンバタ<パンドレ嵯峨店>

 「30年以上前につくりました。あんことバターを組み合わせる菓子パンをつくったのは、うちが初めてです。パンの大きさとグラム数が決まっていまして、あんことバターを何グラム塗るかを決めて、量ってつくってます」とスタッフが教えてくれた。北海道産の最上級あんことよつ葉バターを、ほどよい弾力のあるドイツパン生地で挟み込んでいる。


 あっさりとしたあんこにバターのコクが加わることにより、味に深みができる。

 あんぱんに牛乳が合うように、あんこと乳製品の相性がよいことも、この2つの組み合わせが成立する一つの所以(ゆえん)なのかもしれない。


 さらに、「あんバタ−」以外にも、あんこを使ったパンを2回紹介させていただいた。

 【3月30日】抹茶白あん&黒あんサンド レモンピールのせ<CAFE Uchi(カフェ ウチ)>

 【5月9日】小倉&ミルク<アンジュール桃の木> 

 抹茶生地とあんこの組み合わせたり、バターの代わりにホイップクリームと合わせたり。あんこの汎用性はとどまることを知らない。 

 「あんこ」は京都らしいパンの、一つのキーワードだろう。

 あんこの風味に注目してあんぱんを食べると、いつもとは違った風味の変化に気づくかもしれない。「一日一パン」で紹介させていただいたあんこを使ったパンと、皆さんとのよい出会いがあることを願っている。

 ☆「一日一パン」は、京都市を中心に、京都や滋賀のパン店をめぐり、毎日ひとつのパンを取り上げ、写真と記事で魅力を紹介する、「ライトプラン」以上の有料会員向け記事です。5月23日〜29日に公開される記事は、特別企画として無料でお読みいただけます。