愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動を巡る署名偽造事件で、愛知県警が、地方自治法違反容疑で運動事務局長の元県議、田中孝博容疑者ら4人を逮捕した。

 民主主義の根幹を揺るがしかねない前代未聞の事件は、発覚から3カ月余りで事務局トップの逮捕に発展した。捜査当局は、不正の全容解明に全力を尽くしてほしい。

 昨年8月に始まった大村知事のリコール運動では、県選挙管理委員会に提出された署名43万5千人分のうち8割超が無効と判断された。筆跡の重複や選挙人名簿に登録されていない人の名前が大量に見つかった。

 田中容疑者ら4人は昨年10月、佐賀市内の貸会議室で複数のアルバイトに有権者の氏名を書かせ、署名を偽造した疑いが持たれている。

 運動が一定の支持を集めたように見せかけるために、組織ぐるみで「民意のねつ造」が行われたのであれば、正当な手続きで選ばれた知事を陥れようとした罪は極めて大きい。

 疑惑の発覚以降、アルバイト集めを請け負ったという名古屋市の広告関連会社の前社長は、田中容疑者自らが発注書にサイン、押印したと主張している。

 誰の指示だったのか。アルバイトの人件費など資金の出元や流れはどうだったのか。徹底的な捜査で、はっきりさせる必要がある。田中容疑者らはぜひ真相を語ってもらいたい。

 運動は、美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長が主導し、名古屋市の河村たかし市長も街頭演説などで支援してきた。

 両氏とも関与を否定し続けているが、活動の進め方や署名の精査を怠った責任は免れない。刑事事件に発展した事態を重く受け止めて捜査に協力し、説明責任を果たすべきだ。

 事件では、首長や議員の選挙と同様に直接民意を示すために設けられたリコール制度への信頼が大きく揺らいだ。

 今回は、同じ筆跡や指印が大量にあるというずさんさから不正を見抜けた面がある。しかし、筆跡を変えるなど偽造の方法が巧妙化すれば、なりすましを見逃す恐れもある。

 制度の適正な運用に向け、県選管は、署名集めを担う「受任者」の届け出制導入を柱とした提言を総務省に提出している。地方自治法は懲役などの厳しい罰則を設けているが、再発防止に向けたルールの見直しも検討すべきだ。