水素エネルギーの実用化に向けた動きが加速している。

 次世代のクリーンな燃料として需要が見込まれ、企業が活発に投資しているからだ。

 水素を大気中の酸素と反応させて発電する燃料電池は、自動車だけでなく鉄道や船舶にも搭載が始まっている。火力発電に代わる技術として、水素を燃やして発電用のタービンを回す水素発電も開発が進んでいる。

 政府は昨年12月、脱炭素と経済成長の両立を目指す計画「グリーン成長戦略」をまとめた。14の重点分野には水素の活用も入っており、企業の研究開発や普及への取り組みに計2兆円の基金が充てられる。

 菅義偉首相が掲げた「2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」という目標の達成に向けては、二酸化炭素(CO2)を出さない水素エネルギーが「切り札」の一つにもなり得る。

 ただ、手を加えずに利用できる水素は地球上にほとんど存在しない。量産体制の構築と製造コストの削減が大きな課題だ。

 環境負荷を抑えながら大量に製造する試みは既に始まっている。

 昨年、世界最大規模の水素製造工場が福島県浪江町で稼働した。太陽光パネルで発電し、水を電気分解して水素を作っている。

 発電過程でCO2を排出する化石燃料由来の電力ではなく、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを用いることは、脱炭素化に向けた世界の流れだ。発電量が天候などに左右されやすい再生エネの貯蔵にもつながる。

 現状では、再生エネ由来の電力が高価なことが製造コストを押し上げている。国の水素基本戦略では、現在のガソリンに近い費用の実現を目指している。再生エネを大幅に拡大して低価格に抑えることが、水素の普及にも欠かせない。

 製造過程でレアメタル(希少金属)が必要な点も気がかりだ。水の電気分解で用いる電極の触媒には、特に産出量の少ないイリジウムや白金が用いられている。

 需要の拡大を見込んで、各国がサプライチェーン(供給網)の強化を進める一方、資源国が権利を主張する「資源ナショナリズム」も先鋭化し、経済安全保障上の問題となっている。

 こうした状況を受け、大学や民間企業では、特に希少な材料を使わずに合金などで代替する技術の開発も行われている。政府には、積極的な支援が求められる。

 水素に期待されるのは、エネルギー源としての活用だけではない。物質に含まれる酸素を取り除く「還元剤」としての役割だ。

 産業別のCO2排出量で最も高い4割を占める鉄鋼業では、鉄鉱石から酸素を除くために用いるコークス(石炭)を水素に置き換える実験が始まっている。CO2の代わりに水だけを排出する画期的な技術となる可能性を秘める。

 日本は元々、水素に関する研究で世界のトップクラスを走っている。官民挙げて技術を実用化し、ビジネスとして成立させるための緻密な戦略が必要だ。