スエズ運河(エジプト)で今年3月、日本企業所有の大型船が座礁したのは、まだ記憶に新しい。

 離礁するのに1週間近くを要し、周辺では400隻以上の船が立ち往生した。地中海と紅海を結び、世界貿易の1割余の荷物が集中する要衝なので、世界の物流に大きな影響を与えた。

 座礁後に、サプライチェーン(供給網)を維持するため、代替ルートを求める声が高まったのも当然である。

 その有力候補の一つが、ロシア沖を通る北極海航路(北東航路)だといわれている。併せて、北極圏での資源開発にも、各国の熱い視線が向けられているようだ。

 こうした中、米国やロシア、カナダと北欧周辺の関係8カ国からなる北極評議会が先月、閣僚会合を開いた。

 北極圏の平和と安定のために協力し合うとの宣言を発表し、持続可能な開発や環境保護において、互いに連携していく方針などを打ち出した。非常に意義深いことである。

 北緯66度33分以北にある北極圏は夏以外、大部分が凍結している。長く、不毛の地ともいわれてきた。

 ところが、過去50年に世界平均の約3倍の速さで進んでいるとされる温暖化が、状況を一変させた。

 自然環境や先住民らの暮らしに有害な影響を及ぼす一方で、海氷が解けて少なくなり、圏域の利用と開発を促しているというのだ。

 北極海航路は、欧州とアジアを結ぶ船舶の運航距離が、スエズ運河を経由するより大幅に短い。日本までの距離は、約4割も縮められるとされている。

 海氷が減れば航行は容易に、かつ現在より長期間可能となる見込みである。

 米国の調査機関によると、世界で未発見の原油の約13%、天然ガスの約30%が北極圏に埋まっているそうだ。

 圏域内のロシアで進められている液化天然ガス事業には、中国やフランスの企業に加え、日本の商社も参加し、2年後の生産開始を目指す。資源開発も、加速している。

 利活用が進んで権益が生じると、関係国の主導権争いが激化しないか、心配だ。

 北極圏で最大の領土を持つロシアは近年、周辺での軍事活動を活発に行い、基地も増強するなど、存在感を誇示しているとされる。

 2015年には、北極海における大陸棚の大幅な延長を国連に申請し、自国の航路を通る外国船に許可を取るよう要求する方針を示した。

 沿岸国ではないが、巨大経済圏構想の「一帯一路」を掲げる中国も、北極海航路などに高い関心を持っているという。

 これらの動きに対し、中ロと対立する米国は、警戒感を強めている。

 南極では、日米と旧ソ連などが、平和利用と領有権の主張凍結などを定めた条約を結んだ。北極圏においても同様に、評議会の議論などを基に開発に関する国際ルールを確立し、権益を巡る争いを回避すべきだ。