主人公は小学一年生の"はるこ"
この物語は、小さなはるこが祇園祭を通して出会う人々との交流と、ちょっぴり不思議な出来事を描く、ひと夏の物語です。


7月24日


後祭、山鉾巡行がはじまりました。
どこまでもすみきった空が、町をおおっています。
みまもる見物のひとたちの、パタパタとあおぐうちわが、
日の光をはねて、キラキラと道をふちどっています。


烏丸御池。
橋弁慶山をはじまりに、ぎっしぎっしと、河原町通りに向けて。東へ、東へ。
山鉾がすすんでゆきます。


お囃子の音もよりいっそうはなやかです。
京のみやこにおこしになった神様の、目と耳を楽しませながら、やがておかえりになる道をピカピカと清めてゆきます。

あれは、松の木をのせて、すーっとのびる北観音山。
うつくしくも いさましい、女神様がのる、鈴鹿山。
浄妙山には先陣をあらそう武士がのり、
音頭取りが、力づよくまう南観音山もはなやかです。

そして、 150年のときをこえ、京のみやこへかえってきた大船鉾。
りっぱな船の上には、たくさんの囃子方がのっています。

こんこんちきちん  こんちきちん

祇園囃子がひびきます。
いま、ここにたちあうみんなが、その姿をほれぼれとみあげています……。

前祭23基。後祭10基。
おおきな曳き山、鷹山も 2022年によみがえるとか。
千年以上もまえから、つづく祇園祭。
まもりつづける人々の、そのすがた。 


……どん、どん、どん わっしょい、わっしょい……

 

おおきな旗をかがけた人を先頭に、花傘巡行がはじまりました。
ことしは、はるこもさんかします!

どんどこ どんどん
どんどこ どんどん

そろいのはっぴをみにつけて、おおきな太鼓をうちならすこどもたち。そのあとを、いくつものこども神輿が、明るい声をたてながら、つづきます。

わっしょい! わっしょい!
わっしょい! わっしょい!

はるこも、ゆきちゃんも、クラスメイトたちもたくさんまじってにぎやかです。小さいけれど、立派なお神輿。うでをいっぱいふりあげて、わっしょいわっしょい、すすみます。


「はーるこー!」
歩道からお母さんがぶんぶん手をふっています。
はるこの声がおおきくなります「わっしょい!」
「みて! はるこ、がんばってる!」うれしそうにお母さんが言いました。
お母さんをうちわであおぎながら、お父さんが聞きます。
「きみこさん、つわり、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶ! はーるこー!」
「もう! きみこさんてば!」
うちわが、びゅんびゅんと早くなりました。

わっしょい! わっしょい!

まっしろな着物をきて、花傘をかぶった女の人たちが歩いてゆきます。
あでやかな舞妓さんのあとを金銀の獅子たちがまいおどります。


疫病がはやり、たくさんの人たちがなくなった、京のみやこで、
これ以上のくるしみは、いりません。
みんなが、幸せにくらせますように。
そう ねがった町の人たちの、こころが道に花咲きます。


ふっちゃんは、それはそれは楽しそうに、
こども神輿の間でおどり、かぶる花傘の花をゆらし、
獅子舞といっしょに ぴょん! とはねたりして、
みずいろ、ももいろ、きみどり、きいろ、あらゆる花をふりまいています。

(みんなにも みえたらええのにな…)

お神輿をかつぎながら、はるこはうっとりと思いました。
するとそのしゅんかん、ゆきちゃんが汗ばんだかおを、かがやかせて、言いました。
「はるちゃん! さっき、獅子舞のせなかにちいさい子がのってた……みまちがえやろか!」
はるこは、むねのおくがきゅうっとなって、
「ううん! ゆきちゃん!」と答えました。
「ふっちゃん、その子、ふっちゃんっていうねんよ!」


それはもう、みんながちらちら見た姿。きっときっと。


四条御旅所のまえ。
花傘巡行をいろどる、それぞれの一団がたちどまり、
御旅所にいる神様に手を合わせます。
こども神輿のみんなもたちどまり、手を合わせました。そのときです。

 

はるこの目に、キラキラと白い光につつまれて、うっすらと、7人のこどもたちが見えました。そのうしろに、にこにこわらう、ふたりの おとなのすがたも見えました。


「おとうさん、おかあさん!」


ふっちゃんが言いました。ふたりは、ゆっくりとふっちゃんを手招きしています。
ふっちゃんは、ふるふる とあたまをふって、
「もうちょっとだけ! もうちょっとしたら、ちゃあんともどるから!」と言いました。

お母さんらしき人が、お父さんらしき人に耳打ちをすると、お父さんは、ふむ、とうなづいて、ふわっと両手をあげました。


「さあ、いくでー」
かけごえとともに、こども神輿がかつがれて、巡行がつづきます。

はるこは、ちょっぴり泣きたくなりました。
かねちゃん先生が言っていたことばの意味が、やっと、わかったからです。


「神様はね、24日の還幸祭まで、いらっしゃるんだ」


ほな、ふっちゃん、もう、いなくなる。


花傘巡行は、やがて八坂神社にもどります。
芸妓さんのうたやおどりが舞殿で奉納されます。さいごのさいごまで、うつくしいもの、きれいな音色で、神様一家を、おもてなししています。


……そのすべてがおわったあと。


「はるこ、つかれただろ。かえろ」
お父さんが声をかけました。
「お母さんは? 」
「うん、先にもどったよ。はしゃいだからねえ」
「お父さん、ちょっとまってて!」

はるこは走って、八坂神社の本殿にもどりました。
かねをふって、パンパンと手を合わせました。

「ふっちゃんが、かえりませんように。ふっちゃんが ずっとずっとここにいますように」

「はるちゃん。うち、ずっといるで」

くるっとふりかえると、舞殿にこしかけて、ふっちゃんが笑っています。
「でも! かえらなあかんのやろ。おとうさん、こわいんやろ……」
「うん! めちゃめちゃ、めちゃめちゃ、こわい」
「ほな……」
「でも、めちゃめちゃ、めちゃめちゃ、やさしいねん」


ふっちゃんはにっこり笑っていいました。


「うち、ずーーーーっと、いる。
はるちゃんが生まれた日も、はるちゃんが、くつはけた日も、
見えへんだけで、うち、ずーーーっといたもん。  
またあそぼう、はるちゃん」


風がざーーっと吹いたとき、ぽんと、はるこの肩にあたたかな手がのりました。
はるこが はっ とふりかえると、みしらぬおばあちゃんが、ほほ笑んでたっていました。
「おじょうちゃん。どないしたんや、まいごか」
はるこは「ううん! いま!」と舞殿をみました。

 

ふっちゃんの姿はありません。


ポロポロと、はるこの目から涙があふれてきました。
ポツポツと、地面におちて、はねて、しみてゆきます。


おばあちゃんは、にっこりわらって、あたたかな指で、はるこの涙をぬぐってくれました。
そうして、ちいさな瓶をはるこの手にのせました。

「これ、もっていき」

それは、ガラスの瓶にはいった〝こんぺいとう〟でした。
みずいろ、ももいろ、きみどりやきいろ。
ふっちゃんがこの町にまいた花のような、〝こんぺいとう〟でした。


カロン、カラン、カリン。


瓶をふると、あのときの音がします。
おばあちゃんは、ひとさしゆびを口にあて、「あの子とおそろいよ」とやさしく笑いました。はるこは、はっとおばあちゃんを見ました。
おばあちゃんは、ぱちっとウィンクを一つして、ちいさく手をふり、どこかへとかえってゆきました。


はるこは、ぶんぶんと手をふりました。
おおきく、おおきく、手をふりました。

「またね、またね!」

そして夜。
還幸祭がはじまりました。

中御座には、おとうさん(スサノオノミコト)
東御座には、おかあさん(クシナダヒメノミコト)
そして西御座には、8人のこどもたち。(ヤハシラノミコガミ)

3基のお神輿を肩にかついだ、いさましい男たちが、
月明かりにてらされて、町をねり歩きます。

ホイット! ホイット! ホイット!

ずっしりと肩にくいこむお神輿。力づよいかけ声。
男たちのはく、あつい息が、夏の夜を白くそめます。

〝神様のおかえりや……〟

八坂神社の境内は、もえるような熱気につつまれて、夜はふかくふかく、しずんでいくのでした。


<つづく>

 

後祭山鉾巡行・花笠巡行〜還幸祭

いよいよ神様一家が帰る日がやってきました。来た時と逆回りのルートで山鉾巡行が行われます。後祭は10基(山7基、曳山2基、船鉾1基)の山鉾が巡行します。

 

2022年、山鉾巡行復活を目指す「鷹山(たかやま)」
 

 

休山(やすみやま)の「鷹山(たかやま)」は2022年の復興を目指しています。2019年より唐櫃巡行(からびつ じゅんこう)での参加も行いました。写真は、鷹山の御神体(ごしんたい)。鷹山の復活が叶えば、山鉾の数は前祭23基、後祭11基の合計24基。これは、過去300年で山鉾が最も多くなるんだそう。2022年、鷹山の曳山(ひきやま)復活、とても楽しみですね!


                              
女性や子ども、いろんな人が参加できる花傘巡行
 

 

ご存知でしたか? まだ歴史は浅く、行われるようになってから50年ほどの花傘巡行。舞妓さんや芸妓さん、こどもたちのお神輿や、花傘をかぶっての華やかな巡行は、ほっこり楽しい気分にさせてくれます。前祭と後祭が一緒に行われるようになった頃、神様の帰り道の清祓いがなくなったことで、生まれた巡行なんです。芸能色が豊かで山鉾巡行とは違った趣で、見物人も神様も楽しませてくれます。

 

そしていよいよ……神様一家の帰り道
ホイット ホイット! ホイット ホイット!

こちらは中御座(なかござ)スサノオノミコトさんが乗るお神輿です。
三若神輿会(さんわかしんよかい)が担います。
東御座(ひがしござ)クシナダヒメノミコトは
四若神輿会(しわかしんよかい)
西御座(にしござ)ヤハシラノミコガミは
錦神輿会(にしきしんよかい)が、それぞれ神様をお運びします。

 

あれ!? はるこたちが後をつけてる!? 一般の人はお神輿とは一緒に歩けないのですが、ご縁があり、スサノオさんのお神輿にくっついて歩かせてもらいました。

 

2tものお神輿を800人ほどの男たちが代わる代わる担ぎます。それが3基あるので、通りは白い法被姿の血気盛んな男達で埋め尽くされますー! 神様をお運びする責任感と緊張感……「白い法被は死装束。神輿で死んでも文句を言うな。」と、先達から教えられるそうです。

さぁ、いよいよ目の前は八坂神社。ふっちゃんとのお別れの時が近づきます……