主人公は小学一年生の"はるこ"
この物語は、小さなはるこが祇園祭を通して出会う人々との交流と、ちょっぴり不思議な出来事を描く、ひと夏の物語です。


7月28日 神輿洗い


ゆきちゃんのよこがおは、しんけんです。
カラン、カランと鈴をならして、パンパン! と手を合わせます。ぎゅうっと目をとじて、なにやらぶつぶつ言っています。

はるこは、ゆきちゃんが目をあけるのをじぃっと、まっています。

ぶつ ぶつ ぶつ ぶつ。
パンパン!

ちからづよく両手をうって、やっと、ゆきちゃんはかおをあげました。


「なに おねがいしたん?」
「ええー、言うたら かなわへんっておばあちゃんが言うてたしなあ……」
ゆきちゃんはちょっと口をとがらせて「そやけど」と、いたずらっぽく笑いました。
「はるちゃんには、言ってもいいことにしよ! あんな……(ごしょごしょ)うちも、ふっちゃんとあそべますようにっておねがいしてん!えへへ」
はるこも、えへへと笑いました。

夏休みはつづいています。
ふたりは、はるこのお父さんにつれられて、八坂神社までやってきています。
本殿で手をあわせ、くるっとふりかえると舞殿が見えます。そこには、りっぱな3基のお神輿がかざられています。

中御座、東御座。
そして8人の王子たちがのっていた西御座。

ふたりは、お神輿をよこからみたり、ななめからみたりして、「はあ〜!」とため息をつきました。
「ふっちゃん、これにのってかえらはったんや。すごいなあ!」
「うん。すごいやろ」と、はるこは、お神輿をみあげました。


キラキラと金色にかがやいて、いくつものちょうちんが、ぐるりとまわりについてます。やねのてっぺんには、りっぱな鳥が羽をひろげています。


はるこの目には、ホイットホイット! とゆれるお神輿に、「おっとっとと!」と、しがみついている、ふっちゃんの姿がみえました。ふっちゃんだけじゃなくて、8人ものっているから、きっと みんなで上になったり下になったりして…


「おっとっとと! おっととととと!!」と、ぎゅぎゅうっと、のっていたんでしょう。 
 

 

「ふふっ」とはるこは笑いました。
「え? なんでわろたん?」 とゆきちゃんが聞きました。「なんでもない!」ひゃあっとにげるはるこを、「ずるい! なんなん!」とゆきちゃんがおいかけます。


「おお、元気だねえ」買ったばかりのジュースをもってお父さんがもどってきました。
「メロンジュースといちごジュース、どれにする?」
「メロン!」「うち、いちご!」ふたりは元気にこたえました。

ミーンミンミンミン。
せみも元気。みんな、元気です。

ふっちゃんののっていたお神輿は、はしゃぐふたりにかこまれて、そっと、しずかに、そこにあります。そこにふっちゃんのすがたは見えないけれど、はるこがぴょんとはねるたび


カラン、カリン、カロン!

    
ポケットのなかのちいさな瓶が音をたてるので、はるこには、ふっちゃんのえがおが見えるのです。

 
……太陽がしずんで、〝神輿洗い〟がはじまりました!
道をきよめる松明が、ほのおをあげて、ゆうぐれの町をゆきます。


よいやっさーじゃ!
よいやっさーじゃ!


日にやけた、おおきなからだの男たちにかつがれて、じゃぎんじゃぎん!とお神輿がすすんでゆきます。まっしろのはっぴが、ゆうやみにくっきりとうかびあがり、まるでしぶきをあげる波のようです。

 

〝神輿洗い〟は神職さんが、朝くみあげた 鴨川の水を榊にふくませ、四条大橋のまんなかで、お神輿をきよめる行事です。その水のしぶきをうければ、厄除や、無病息災の後利益になると言われています。

それもあって、ちいさなこどもも、よいしょ!と、おとなにかかえられ、お神輿のまわりにあつまります。

ザッ! と、水しぶきがとんで、お神輿がきよめられてゆきます。そのしぶきをうけようと、おとなたちは、ぐいっ! と、こどもを上にもちあげて、健康をねがいます。


かみさまをのせる、おおしごとをおえたお神輿。
らいねんも、その次も、そのもっと次も、おおしごとは、まっています。
もういちど、ねがいをこめて……


ザッ……!と、水しぶきが、とびました。


<つづく> 

 

神輿洗い 

 

祇園祭の1ヶ月の間に神輿洗いは二度行われます。最初は前祭の宵山が始まり、人で賑やかになる前の7月10日に。2回目は神様が7日間の旅を終えた24日から4日後の28日。鴨川の水を汲み上げ、榊(さかき)の葉っぱを使ってお神輿に振りかける、お神輿を清めるためのとても大切な神事です。


祇園祭と “水” の深い関係

神輿洗いは、お神輿を清めるための神事だと上で記しましたが、実はもう一つの側面もあるんですよ。

 

 

新型コロナウイルスが猛威を振るう2020年、外出自粛期間中にどれだけの人が鴨川の存在に助けられたことでしょう。河川敷を散歩して、こどもたちは束の間の屋外活動を楽しみ、季節の植物に癒され、川の水面に心が洗われ……。
京都の人々の日常の営みに深く寄り添う鴨川。その川の神様にも一層の感謝の気持ちを込めたいですね。

祇園祭は鴨川の神様をお迎えして行われるお祭り
でもある

平安時代、鴨川の水が大氾濫を起こして、京のみやこは水害で悩まされました。その二次災害で感染症がおこり、たくさんの人たちが命を落としました。
 

 

鴨川があり、桂川があることでみやこに豊かな恵を与えてくれたことも事実です。が、同時に自然の猛威に悩まされていた人々。(これは今も同じですね!!)鴨川の神様を迎え、牛頭天王の強力な用心棒に頼り、1年の安寧と幸せをお祈りする祇園祭。一つ一つの行事や神事に、ふか〜〜い意味と歴史がありますね。