ミュージシャンで俳優のピエール瀧容疑者がコカイン摂取の疑いで逮捕され、衝撃が広がった。

 麻薬取締法で懲役7年以下となる犯罪だ。調べに「20代のころから使用していた」と供述しているといい、若者への影響を考えても責任は重い。

 そうした点を踏まえた上で、気になることがある。

 逮捕をめぐる一部のテレビ番組などで、薬物依存症への誤解や偏見が助長されていないか。無理解からくる発言で、依存症に苦しむ人たちが自己否定に陥り、依存症回復の機会を遠ざけてしまう。そうした懸念を耳にする。

 依存症について、まず知ることが大切ではないだろうか。

 薬物依存症からの回復プログラムに取り組む国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦薬物依存研究部長は、薬物依存症を「回復可能な病気」と説いている。

 元の体質に戻すという意味なら、薬物依存症は治らない。しかし、他の慢性疾患と同じように「治らないが、回復できる病気」というのだ。

 薬物をやめ続けることで、失った健康や大切な人間関係、社会からの信頼を、取り戻すことができる。精神医療では長く見放されていたが、依存症の自助グループの長い活動から「回復できる」ことが実証されてきたという。

 薬物依存が深刻な欧米では、厳罰で解決されない経験から回復へのプログラムに力を入れている。

 日本でも2016年に薬物使用者の「刑の一部執行猶予」制度が施行され、社会の中で立ち直りをサポートする取り組みが始まっている。刑務所での収容を短くし、出所後に保護観察所の監督下で回復プログラムを受けさせる。

 一歩前進といえるが、保護観察期間後に再使用の危機が訪れるという。地域での継続的な支援が欠かせない。松本氏らは地域の精神保健福祉センターを拠点に、保護観察期間中から「なじみの関係」をつくり、民間回復施設や自助グループとつなげる試みを進めている。大いに注目したい。

 回復を支えていくには、社会に理解が広がっていないといけない。しかし、「覚せい剤やめますか、それとも人間やめますか」という1980年代の言葉が今も残り、依存者を苦しめているという。

 ピエール瀧容疑者の違法行為は許されないが、CD回収や楽曲配信停止など自粛の動きは、行き過ぎではないか。すべてを否定しようとする社会の空気は、依存症の人に限らず、かなり息苦しい。