マウンドに立つと、右打者のホームベース外角ぎりぎりの所に、投げ込む目標となるきらきらとした光の線が見える。その線が見えなくなったら引退しよう▼投手として阪神など数球団を渡り歩き、大リーグにも挑戦した江夏豊さんは、そう考えていたそうだ(川北義則箸「引き際の美学」)。アスリートらしい明快な出処進退の決め方である▼東京五輪招致疑惑に絡み、日本オリンピック委員会(JOC)の会長を退く意向を表明した竹田恒和氏にも引き際への思いはあったろう。それでも、自ら招致した東京五輪の「光」を見る前に退任するつもりはなかったに違いない▼イメージ悪化を憂慮して即座の辞任を求める大会関係者の意見は強かったが、6月の任期満了をもって退任するとした。竹田氏は一貫して潔白を主張しており、引き際の美学は貫いたつもりなのかもしれない▼だが、JOCでは役員の定年規定「選任時70歳未満」を改定してまで竹田体制を維持しようとするなど、強引なやり方も目立った。旧皇族の出身で、馬術選手として2度の五輪に出場するなど輝かしい経歴を持つ人だが、2001年から10期という会長期間はあまりにも長い▼惜しまれつつ身を引くことが、引き際では大事とされる。竹田氏は、タイミングを少し逸した気もする。