首相官邸

首相官邸

 官房長官会見は原則、平日午前と午後に行われる。

 官邸は毎回、記者に聞かれそうなテーマや時事的なニュースに対する回答案を事前に用意している。想定外の質問が出たら大抵、会見場の脇に並ぶ官僚がすっと長官にメモを差し出す。

 23日午前、福井県の美浜原発3号機が運転開始から40年を超えた老朽原発として、福島第1原発事故以降初めて再稼働された。

 原発政策の一つの節目だ。長官を専門に担当している「番記者」が当然、質問すると思っていた。だが東京五輪関連の質問ばかりで、誰も聞かない。

 私は終盤に手を挙げた。

 加藤勝信官房長官は「あのー、これは、規制委員会でしたかね」と言いながら官僚の方を向き、「ありますかね?」と小声で聞いた。おそらく回答案のことだろう。

 しかし助け船はない。いつもの流ちょうな加藤氏とは思えない、しどろもどろで、規制委の審査を経て再稼働し、安全な運転への配慮に努めてほしいという趣旨の発言をした。

 事前に質問を通告して中身のある回答を引き出すべきという考え方もある。だが、アドリブのやり取りで加藤氏の見識や、官邸が今回の再稼働を重大視していないことが伝わってきた。

 「老朽原発を動かすな!」。会見終了後、官邸から目と鼻の先にある国会前で、市民団体が横断幕を掲げて集会をしていた。

 10年前の原発事故で私たちは大きな教訓を得た。政府も官邸のエリート官僚も大手メディアの記者も、どこを見ているのだろう。

 一介の地方紙記者としては疑問が残った。