初の五輪に挑む競泳女子の大橋=東京アクアティクスセンター

初の五輪に挑む競泳女子の大橋=東京アクアティクスセンター

 重圧をはねのけ、初の五輪切符を手にした4月3日夜。大橋悠依(25)はLINE(ライン)で届いた父・忍(62)からの祝福メッセージに、彦根市のキャラクター「ひこにゃん」のスタンプを添えて返信した。

 「タイムが遅い(笑) がんばるよ」

 三姉妹の末っ子。卵やエビなどアレルギーがあり、鍋などは家族と別に小鍋に分けることが多かった。病弱だったが、幼稚園のころに初めて行った福井県の水晶浜でひるまず海に入って泳ぎ、家族を驚かせた。「全く水を怖がらなかった」と忍は懐かしむ。

 長女の芽依(30)と次女の亜依(28)を追って彦根市のスイミングスクールに通った。「体力がなく練習嫌いだった」というが、小学校時代から全国大会に出場していた。家族は東北や九州など遠方の会場でも車で駆けつけた。好物の八つ橋を差し入れる父について「ファンのようになっている」と大橋。会場に両親の姿を見つけると安心した。

 試練が訪れたのは東洋大進学後。体が重い。タイムが伸びず、日本選手権は予選で40人中最下位。体調不良の原因が分からないまま時間だけが過ぎた。競技を辞めることも考えた大学2年の秋。帰省中に地元の病院でたまたま血液検査し、極度の貧血と判明した。

 これを機に体質改善に取り組んだ。献身的に支えたのは母・加奈枝。アサリやひじき、切り干し大根など鉄分が多い食材や手料理を冷凍して都内の大学寮に送り、時には下宿先を訪ねて作り置きした。忍も「焦らなくていい」と励まし、寄り添った。迎えた大学4年、親子の努力が実を結ぶ。大橋がメドレー2種目で日本新記録を樹立した。

 楽しんで-。両親がいつも娘にかける言葉だ。大橋は「緊張したり、苦しんだりしている時でもそう言ってくれることが大きい」と誰よりも温かいエールに感謝を忘れない。忍は「普通なら見られない世界で頑張っている。親としてこんなにうれしいことはない」と響き合う。

 家族の夢がかなった夜。父は娘にLINEで送り返した。

 「よくやったよ」

(敬称略)

 おおはし・ゆい 1995年生まれ、滋賀県彦根市出身。草津東高-東洋大を出てイトマン東進に所属。五輪は200メートル、400メートルの個人メドレー2種目に出場。