新しい野球の魅力を見せてくれた。楽しいプレーをありがとう。

 米大リーグ、マリナーズのイチロー選手が現役引退を表明した。野球ファンだけでなく、多くの人が寂しい思いでいっぱいだろう。

 帰国して臨んだ大リーグ開幕第2戦。引退の速報を知った観客が総立ちになり、感謝や惜しむ声がわき上がった。

 イチロー選手が特別な存在であることを物語る光景と言えよう。新しいタイプのヒーローとして語り継がれるに違いない。

 プロ野球のオリックス時代、本名の鈴木一朗からイチローに登録名を変え、安打製造に磨きがかかる。振り子打法という個性を、当時の仰木彬監督の下で貫いたのがスタートだろう。

 米国に渡った時、大リーグは筋肉を増強させた大男たちがホームラン量産を競い合っていた。そこにイチロー選手が走攻守で躍動し、グラウンドを駆け回った。ベースボールの原点を、本場の人たちに思い出させたのだ。

 シーズン262安打で大リーグ記録を84年ぶりに更新したほか、大リーグ初の10年連続200安打、首位打者2度など、輝かしい記録を打ち立てている。大リーグ19年の3089安打は歴代22位、日米通算4367安打はピート・ローズの記録を上回る。

 数々の偉業にあらためて頭が下がる。ただイチロー選手にひきつけられる理由は、それだけではない。野球への姿勢、立ち居振る舞い、考え抜かれた言葉に心を動かされた。グラブを入念に手入れし、四球後にバットを投げずに置くなど、野球道具を大切に扱う。トレーニングやストレッチに独自の方法で丹念に取り組む。

 自分の頭で考え、感性を磨く。他人まかせにしないで、自己に向き合う姿勢。さらに細部へのこだわりや厳しい自己管理は、求道者を思わせる。一方で練習中に背面キャッチしてみせる姿は、ボール遊びに興じる野球小僧のようだ。この両面を併せ持つところが、イチロー選手の魅力ではないか。

 引退表明の記者会見で「人より頑張るなんてできない。自分の限界をちょっと超えることを繰り返す。その積み重ねでしか自分を超えられない」と語ったイチロー選手。後に続く若い世代に伝えたい言葉でもあろう。

 引退後は「真剣に草野球を極めたい」といい、子どもや学生への指導にも関心を示した。45歳、これからも新しい風を吹かせてくれるような気がする。