ドン。バッティングセンターで選球眼を鍛えるためボール球を見逃す小学生がいた。ストライクコースはヒット性の打球を連発▼1ゲーム200円。月5万円になることもあったが、中学卒業まで毎日、父子で通い詰めた。「チチロー」こと鈴木宣之さんが自著でつづっている▼内野ゴロに終わった現役最後の打席。大リーグのイチロー選手は少年時代同様、全力疾走で一塁ベースを駆け抜けた。不屈の精神で走り抜けた28年間。日米の球界に金字塔を打ち立てたのは日々の自己研さんと修練の積み重ねがあってこそだろう▼とはいえ「いつも恐怖と不安と重圧を抱えています」(「未来をかえるイチロー262のNextメッセージ」)とも。真摯(しんし)に野球と向き合い、高い壁を乗り越えてきた▼憧れを一身に背負う選手ほど引退の決断は悩ましい。不振のキャンプ終盤でその2文字と闘った。重圧から解放され試合後、総立ちの観客に笑顔で応えたイチロー選手は「後悔などあろうはずがない」と晴れやかだった。選球だけでなく、引き際を見極める目も抜群だった▼打席でバットを立て投手の方を見すえる―あのしぐさが見られないなんて寂しい。けれども、たくさんの夢と感動をありがとう。今はどれだけ言っても言い足りない気がする。本当にお疲れさま。