トヨタ・パブリカ(右)とスズキ・セルボ(左)の手入れをする立藤さん=京都府綾部市味方町 ※画像の一部を加工しています

トヨタ・パブリカ(右)とスズキ・セルボ(左)の手入れをする立藤さん=京都府綾部市味方町 ※画像の一部を加工しています

新車に乗り換え13年間使用した場合のCO2削減効果の例

新車に乗り換え13年間使用した場合のCO2削減効果の例

日産・スカイラインの整備に精を出す山中康史さん(手前)と父の均さん=京都府舞鶴市溝尻 ※画像の一部を加工しています

日産・スカイラインの整備に精を出す山中康史さん(手前)と父の均さん=京都府舞鶴市溝尻 ※画像の一部を加工しています

 子どもの頃あこがれた海外製スポーツカーや、昭和情緒あふれる懐かしのファミリーカーがずらりと並ぶ。近年、年式の古い自動車(旧車)を集めたイベントが全国各地で盛り上がりを見せ、町おこしや観光誘客に一役買っている。一方、旧車には厳しい税制度や修理用部品の入手困難など、多くの愛好家たちが頭を悩ませている。

■「生まれ変わっても乗る」

 「生まれ変わってもまた乗りたい、そう思える自慢の2台だね」。京都府綾部市のタクシー運転手立藤幹男さん(65)がいとおしそうに見つめる先には、ピカピカに磨かれた旧車が並んでいる。

 1968年式のトヨタ・パブリカと78年式のスズキ・セルボ。エンジンはどちらも快調だ。愛きょうのある顔つきや、流れるようなデザインが新鮮に映る。「今は使い勝手重視のデザインが多いが、当時は個性が命。セルボはイタリアの有名カーデザイナーが手掛けたんだ」と胸を張る。

 2台にはクーラーやエアバッグがないなど、快適性や安全性は現代の車に劣る。しかし、構造がシンプルなため、メンテナンスやチューニングが自身で行えるなど、「自由にいじれる」点が魅力という。車体が軽量なため加速もよく、燃費も現代のエコカー並みだ。

 立藤さんの最大の楽しみは、近畿各地の旧車イベントに参加すること。「イベントを通じて多くの友人と知り合い、語り合うことができる。旧車のない人生なんて考えられない」と笑顔で話す。

 京都市北区の医師中路正裕さん(54)も、旧車の魅力にはまった一人。主に70年代に製造された車7台を乗り継いできた。今は73年式のトヨタ・カローラバンを通勤や買い物などに使用している。

 当時のカローラは、昭和を代表するベストセラーとして街にあふれていたが、今ではほとんど見かけなくなった。ゆえに、町中を走るだけで同世代の郷愁を誘う。買い物や通勤中に、見知らぬ人から「懐かしい」、「いい車だね」と話しかけられることもしばしばだとか。「乗っているだけで注目される点も、旧車の醍醐味(だいごみ)」と中路さんははにかむ。

 九州や四国までドライブに出掛けたこともあり、走行距離はすでに40万キロ以上。しかし、新車に乗り換えることは全く考えていない。「車と一体になれるような運転感覚は最新のハイブリッド車では味わえない。これからも大切に乗り続けたい」

■のしかかる「二重の増税」 欧米では優遇措置も

 国内では、新車新規登録から一定期間が経過した車の自動車税を増税し、ハイブリッド車などのエコカーを減税する「グリーン化税制」が2002年から敷かれている。車の買い換えを促し、環境規制が緩かった時代の旧車が出す有害排ガスを抑制するのが主な狙いだ。

 現在の税制では、登録から13年を超えたガソリン車に約15%分の税金が上乗せされ、軽自動車税では約20%分上乗せされる。また、車検ごとに支払う自動車重量税も、13年超と18年超の経年車に対して段階的に増税され、乗用車で最大約53%分上乗せされる仕組み。車を長く乗り続けるだけで二重の増税がのしかかってくる。

 一方、欧米では旧車の希少性や文化的価値を考慮して、税の優遇を実施する国もある。ドイツのヒストリックカーナンバー制度は、製造から30年以上の保存状態のいい旧車に対し、Hの記号付きのナンバープレートを付与。自動車税や自動車保険料が減免される。

 車を長く乗り続ける上で不可欠な純正部品の供給も現状は心もとない。トヨタやホンダなど大手メーカーでは、製造後10年を目安に生産を打ち切る部品が多い。マツダや日産などは、需要の多い旧車の部品を再販売する事業を始めているが、対象は一部のスポーツカーにとどまっている。

 自動車評論家の西川淳さん(53)=京都市上京区=によると、欧米ではメーカーや部品製造会社が、定期的に旧車部品の再生産を実施しており「車に愛着を持ち、手直ししながら長く乗り続ける人が多い」と話す。

 西川さんは、旧車を所有する条件が日本で不利なのは、人々の間に自動車文化が十分に根付いていないからだと推測する。欧米では、レースなど自動車関連のイベントが多く、車に親しみを持ちやすい環境があるという。「美術館の絵画と一緒で、多くの人が価値があると認めてこそ、保護しようという動きになる。最近国内でも旧車イベントが増えつつあり、愛好家はこういった機会を使って、広く旧車の価値や魅力を広めてほしい」と期待を込める。

■新車買い換えはエコ? 専門家指摘 「製造時に大量CO2」

 最新のエコカーに買い換えるのと、古い車に乗り続けるのとでは、どちらが地球に優しい? 九州大の加河茂美教授(46)は「二酸化炭素(CO2)排出という観点でいえば、安易な買い換えはおすすめできない」と話す。

 加河教授の推計では、一般的な普通乗用車1台の製造過程で約6・5トンのCO2が排出され、ハイブリッド車や電気自動車では、さらに多くのCO2が排出されるという。

 一方、ガソリン1リットルで15キロ走る乗用車が排出するCO2は、1年間で2トン程度で、13年間乗ると約26トンが排出される。仮に燃費が10%向上した新車に乗り換えたとしても、年間で約0・2トン、13年乗り続けても2・6トンしか削減できず、削減量が製造時の排出量を上回ることは非常に困難だと分析。

 「大量生産、大量消費を繰り返すより、旧車を乗り続ける方が環境にはずっといい」と指摘する。

■維持費高騰に募る不安

 舞鶴市の会社員山中康史さん(41)の愛車は、父の均さん(70)が若かりし頃に購入した1969年式の日産・スカイライン。休日は親子で整備に精を出し、今も元気よく走りだすが、今後もこの状態を維持できるかどうか不安を抱える。

 車は康史さんが生まれる前から家にあり、一家のファミリーカーとして買い物や家族旅行など、長年にわたって活躍してきた。同型は「ハコスカ」の愛称でファンに親しまれる人気車種。しかし、純正部品のほとんどは生産が打ち切られており、欠品状態となっている。そのため、日産のディーラーに持ち込んでも、修理を受け入れてもらえないという。

 希少な中古部品は、ネットオークションなどで価格が高騰しており手が出せない。なじみの整備士や部品工場に特注品の製作を頼むなどして、何とかやり繰りしている。

 新型車に比べて割り増しされている税金も、じわじわと家計を苦しめる。エコカーへの買い換えを促す税制には「愛車を長く乗り続けるのもエコの一つだと思うのに…」と納得がいかない。

 「まるで家族のような存在で、ずっと乗り続けたい。でもパーツ不足や維持費の高騰を考えると、心配でしょうがない」と困り顔で話す。