新型コロナウイルス対策での酒類の提供停止要請を巡り、菅義偉政権の迷走が続いている。

 緊急事態宣言下で要請に応じない飲食店への対応の一つとしていた酒類販売事業者に取引停止を求める方針が撤回に追い込まれた。

 憲法が保障する「営業の自由」の侵害にあたる懸念が指摘された上、苦境に立つ酒販業界から大きな反発を受けたためだ。

 先週末には、取引金融機関から店に順守を働きかけてもらう方針について「優越的地位の乱用」の恐れがあると批判され、一日で取り下げとなったばかりだ。

 方針はいずれも法的根拠を欠いた措置で、撤回するのは当然だ。

 恣意(しい)的な「圧力」ともいえ、飲食業関係者らに与えた衝撃は計り知れない。

 政府は、感染拡大を業者への締め付けで押さえ込もうとした強権的な手法を反省すべきだ。

 これらの方針は、東京に4度目の宣言発令が決まった8日、西村康稔経済再生担当相が発表した。

 金融機関への要請では、内閣官房から各府庁省に対し、所管する金融機関に政府方針への協力を求めるよう依頼する文書が出されていたことが明らかになっている。

 政権ぐるみの関与を強くうかがわせる。西村氏も当初、菅首相へ事前に報告したとしていた。

 しかし、菅首相はきのう、「要請の具体的内容について議論したことはない」と述べた。事実とすれば、方針の妥当性について閣内で十分議論しないまま決定したことになる。

 関係閣僚の対応も人ごとのように思える。麻生太郎財務相兼金融担当相は「ほっとけばいいと言った」とし、梶山弘志経済産業相は「強い違和感を覚えた」ため了承していないと話した。

 問題点に気付いたのなら、なぜ強く指摘しなかったのか。首相をはじめ内閣全体が無責任と言われても仕方がない。

 酒販業界からの反発は強い。日頃から対策を求めてきた経緯を無視している-との批判が出たのも道理だ。

 菅政権は酒類提供の抑制を感染対策の中心のように位置付けながら、関係業界が置かれた状況への問題意識が低いことを露呈したともいえる。

 菅首相は「多くの皆さまに大変ご迷惑をおかけした。おわび申し上げたい」と謝罪し、飲食店への協力金の先払いなどで理解を求めていきたいとした。

 困窮する人々に寄り添う具体策を示さねば信頼回復は望めまい。