深い霧が立ちこめる伊吹山山頂で、シカ追いのため猟犬を放つ市猟友会員=5月

深い霧が立ちこめる伊吹山山頂で、シカ追いのため猟犬を放つ市猟友会員=5月

伊吹山山頂付近で植生防護柵のネットを補修する米原市職員ら(6月)=同市提供

伊吹山山頂付近で植生防護柵のネットを補修する米原市職員ら(6月)=同市提供

 山野草の宝庫とされ、多くの登山客が訪れる伊吹山(滋賀県米原市、標高1377メートル)で、ニホンジカの食害対策に市が振り回されている。草花をシカが食べ尽くすことで、観光面の悪影響だけでなく、種の絶滅や土砂崩れ発生の危険性も高まる。市は植生防護柵と捕獲わな設置を進めるが被害は収まらず、「いたちごっこ」(関係者)の様相だ。

 県内最高峰で「日本百名山」にも選ばれている伊吹山。石灰岩が多く冬に寒冷な風が吹くなどの地質・気候条件から樹木が育ちにくく、山頂一帯には全国でも珍しい山地草原が広がる。固有種を含め約600種が自生し、2003年には標高1200メートル以上の約80ヘクタールが国の天然記念物に指定された。

 山頂付近でシカによる食害の兆候が最初に現れたのは08年頃。ニッコウキスゲの花が咲かなくなった。市や県、地元住民、専門家らでつくる「伊吹山を守る会」(現「伊吹山を守る自然再生協議会」)は11年にニッコウキスゲ群落5カ所にシカ侵入を防ぐ防護柵を設置。その後、他の植物にも急速に被害が広がったため、15年から3年かけて山頂周辺約30ヘクタールを囲う長さ4キロ、高さ2メートルの巨大な柵を整備した。

 柵の材質を巡り、試行錯誤は続く。金属製は、冬に雪の重さで倒壊するトラブルが発生。プラスチック製ネットは、シカがかみ切ったり、体当たりして穴を開けたりする被害が後を絶たない。市自治協働課職員は地元ボランティアメンバーと、4~6月のほぼ毎週3日間、補修作業に追われた。数年前から一部のネットをより丈夫な新製品に交換しているが、「既に数カ所破られている」状況だ。

 5月中旬には市猟友会が協力し、猟犬3匹を放ってシカを追わせ、約10頭を柵外へ追い出した。しかし現在も約20頭は柵内にいるという。参加したボランティアの鹿取清己さん(72)は「いたちごっこだが一度諦めると草花が全滅する」と危機感をあらわにする。
 柵内の植生は近年回復傾向だが、同課は「人員や金銭の負担が大きく問題。補修が要らない柵の形態を早く見つけなければ」と打ち明ける。

 一方、柵の外の食害は年々悪化。昨夏の大雨で起きた、5~8合目付近の斜面の大規模崩壊について、同課は食害で裸地化し地面の保水力が弱まったことも一因に挙げる。

 市はシカ捕獲にも力を注ぐが、捕獲数は減少傾向だ。まち保全課が地元自治会と協力し、登山口から3合目までの林道沿いに、わな27基を通年で設置。17年度は112頭捕獲したが、20年度は84頭に落ち込んだ。わなに警戒心を持つシカが増えたためと分析する。同課職員が毎日全27カ所を巡回して点検しており、「捕獲数が増えると予測できても、予算や人員面でわな増設は厳しい」と悩む。

 協議会メンバーの野間直彦・滋賀県立大准教授(植物生態学)によると、ニホンジカの生息数は全国で増加。県内の自然林で食害が報告されたのは高島市内が最初で、5年ほど遅れ伊吹山でも目立つようになったという。「貴重な植物が絶滅すると取り返しがつかず国民的な問題。捕獲数を数倍に増やすべき」と指摘する。