トランプ米大統領の「ロシア疑惑」が晴れたとは言い切れまい。

 モラー特別検察官がまとめた捜査報告書の概要が示され、2016年大統領選でトランプ氏陣営がロシア側と共謀した事実を立証できなかったとした。トランプ氏が捜査に介入したとされる司法妨害についての判断も見送られた。

 政権の存亡を握るといわれ、世界が注目したロシア疑惑は、2年近い捜査でもトランプ氏の関与に迫れない可能性が強まった。

 ただ、捜査の過程ではトランプ氏の元側近が偽証罪などで次々と訴追されている。モラー氏も司法妨害について報告書で「大統領が罪を犯したと結論づけないが、免責もしない」と述べている。

 概要の公表で、全てが明らかになったわけではない。報告書の全文を公開し、議会の場などで真相を明らかにする必要がある。まだ潔白が証明されたとはいえない。

 一方、トランプ氏はモラー氏の事情聴取に応じず、書面回答で済ませた。捜査を「史上最大の魔女狩り」などと批判してきたのに、国民への説明責任を果たしてきたとは言い難い。大統領としての姿勢や資質が厳しく問われよう。

 ロシア疑惑の捜査は異例の展開をたどった。トランプ氏は、当初捜査に当たっていたコミー前FBI長官を17年5月に解任、司法妨害と批判を浴びた。入れ替わるように起用されたモラー氏は、一般に共謀の事実認定は難しいとされる中、元ホワイトハウス高官ら34人とロシア企業3社を訴追するなど積極的に捜査を進めた。

 これに対し、トランプ氏は昨年11月、司法長官を解任した。捜査の進展を止められないことに不満を抱いたとみられている。疑惑解明に人事でストップをかける手法を繰り返したことは、トランプ氏の事実解明に後ろ向きな印象をいっそう強めたといえる。

 報告書の提出で一連の捜査は終結したことになる。トランプ氏側にとっては政権発足以来の懸案が取り除かれたかたちだ。20年の大統領選での再選戦略に追い風になるとの見方も出ている。今後、国境の壁建設など自らが主張する政策をさらに強硬に進め、疑惑を報じてきたメディアに対しても批判を強めると予想される。

 野党民主党は、共謀が立証されなかったことで攻め手を失ったといえる。司法妨害への追及に焦点を絞るなど、大統領選の行方もにらんで激しい攻防となろう。

 米社会の分断と対立がますます増幅されないか気がかりだ。