【資料写真】国立競技場

【資料写真】国立競技場

 人づてに紹介を受け、都内の公営住宅の一室に内藤次郎さん(84)を訪ねた。

 内藤さんは2015年末にいまの部屋に移った。それまでは新宿区の「都営霞ケ丘アパート」に暮らしてていたが、新国立競技場の建設で解体されることになり、立ち退いた。

 「庭の緑が豊かで、夏は庭に集まってビールを飲みながら涼んだものです」。内藤さんはそう振り返る。

 都から立ち退きの通知を受けたのは12年。多くの住民が高齢で単身者や障害のある人も少なくなかったが、主に都内各地の公営住宅に移っていった。

 内藤さんは「長年親しんだ隣近所の人たちと別れてしまった。この年になると、それが一番さみしい」と話す。

 霞ケ丘アパートが建設されたのは1960年代。前の東京五輪開催に伴う再開発で、旧国立競技場の建設地に暮らしていた人たちが入居した。

 それ以来、解体まで住み続けた人が何人もいたという。

 映画「東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート」(23日からアップリンク京都で上映)は住民の引っ越しに密着したドキュメンタリーだ。

 東京では古いものがいとも簡単に壊される。同時に人と街の記憶も失われる。それが東京という都市の宿命なのだろう。

 とはいえ、五輪に2度も翻弄された人たちがいたことは、記憶に残されるべきだと思う。